「大樹伝説と琴」(勝俣隆)という長崎大学の研究を読んでいたのですが、古代日本では琴は神を降ろし神意をうかがう呪具として使用されていたのだとか。
琴を弾いて神意をうかがう様子が古事記や日本書紀に登場し、琴の音に感応して降りてきた神々は、ちゃんと名前を名乗ります。
例えば古事記仲哀天皇の条の記載ははこんなです。
天皇御琴を控かして、建内宿禰大臣沙庭に居て、神の命を請ひき。是に大后神を帰せたまひて、言教へ覚し詔りたまひしく、「西の方に国有り。金銀を本と為て、目の炎耀く種種の珍しき宝、多に其の国に在り。吾地髪の国を帰せ賜はむ。」とのりたまひき。(中略)「今好此言教へたまふ大神は、其の御名を知らまく欲し。」とこへば、即ち答へて詔りたまひしく、 「是は天照大神の御心ぞ。亦底筒男、中筒男、上筒男の三柱の大神ぞ。…」とのりたまひき。
古事記や日本書紀に出てくる琴の音に感応した神々の名前を整理するとこうなります。☟
古事記の仲哀天皇の条
①天照大神 ②底筒男、中筒男、上筒男の三柱の大神
日本書紀神功皇后摂政前紀本文
③撞賢木厳之御魂天疎向津媛命 ④尾田の吾田節の淡郡に所居る神 ⑤天事代虚事代玉籤入彦厳之事代神 ⑥表筒男・中筒男・底筒男の神
日本書紀神功皇后摂政前夕の一書
⑦表筒雄・中筒雄・底筒雄 ⑧向櫃男聞襲大歴五御魂速狭騰尊
皇太神宮儀式帳の九月神嘗祭の条
⑨天照坐太神
この研究によれば、これらの神々の共通点を分析すると、オリオンの三ツ星の神(表筒男、中筒男、底筒男)や太陽神(天照大神)やその系列神など、すべて天上の神々と考えることができるのだそうで、つまり、琴という楽器は天に届き天の神々を召喚する呪具と考えられるわけです。
何回も出てくる表筒男・中筒男・底筒男は住吉三神とも呼ばれる住吉神社の神様ですが、丁度昨日、ルネサンスギターを手に岩田先生主催の練習発表会に行く途中、博多駅前から歩いて住吉神社(上の写真)の前を通ったので、古代史に思いをはせながら手を合わせてきました。