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クロンチョン その4 ウクレレが入ってくる前の小型ギターはどんなだろう

現代のクロンチョンギターすなわちチュックは、ハワイのウクレレが20世紀初頭にインドネシアにやってきて変化したものだと昨日書きました。

また16世紀にポルトガルからインドネシアに到達した5個のペグネジがある小型ギターが、クロンチョン音楽の最初期のギターらしいことも以前に書きました。

そうすると16世紀からウクレレが入ってきた20世紀初頭までの間は、クロンチョンの音楽に使われていた小型ギターはどんなだったのだろうということが気になってきまして、そこで注目したのが冒頭の写真です。

これは、1905年撮影のコメディ・スタンボエル管弦楽団の写真。この楽団は、世界の民話や音楽とクロンチョンを上演してマレーシアとインドネシア全土をツアーしていた人気の楽団ですが、ウクレレが来る直前のタイミングの、インドネシアで人気の楽団が使っていた小型ギターが写っています。拡大するとこうです。

これはなんという楽器なのでしょう。多分ペグが5つ。フレットが4つか5つ。非常に細長いボディ。ブリッジがかなり下寄り。

ペグの数からすると、16世紀にポルトガルから入ってきた小型ギターの系統を引き継いでいる可能性もありそうです。なで肩でくびれの浅いボディのデザインは、ルネサンスギターやバロックギターなど、16から17世紀のギターの雰囲気に近い感じもあります。

ポルトガル起源の近縁楽器を探してみると、ポルトガル領マデイラ島のラジャンRajãoが5弦の小型ギターです。下の写真は1890年ころの写真です。このラジャンはハワイにも渡って、ウクレレの起源のひとつにもなっています。↓

それからスペイン起源の近縁楽器には、メキシコのレキント・ハローチョもあります。こちらも5弦で、ボディデザインが細長くで似ています。↓

ほかにも似ている候補は世界各地にあると思います。あまりはっきりした結論は書けませんが、イベリア半島の古いギターに関係のある小型ギターが中南米でもアジアでもいろいろあるわけです。

ラジャンに着目するとちょっと面白いループが見えてきます。このラジャン的な楽器が16世紀にインドネシアに運ばれてクロンチョンに使われていたとすると、その楽器は20世紀に入ってウクレレにとって代わられるのですが、実はウクレレの起源のひとつがラジャンでもあったということで、ラジャン的な楽器がぐるぐる回ってループしていることになるわけで、ちょっと小説めいた面白さがあります。