世の中には奇妙な病気があるもので、16世紀から17世紀ころを中心に、南イタリア周辺にタランチュラ症(舞踏病)という病気が頻発しました。そのタランチュラ症に関する古い記録を引用するとこんな症状です。
「この邪悪な獣にとりつかれると、一度に百の異なった感覚を得る。泣き、踊り、嘔吐し、震え、笑い、蒼褪め、叫んで失神し、すさまじい痛みに苦しむことになり、もし助けがなければ数日後に死んでしまう。汗と解毒剤が症状を緩和するが、効き目のある唯一の治療法は音楽だけである。」
「そして私たちは、貧しい小作農が呼吸困難で苦しみ、顔と手が黒くなり始めているのを観察した。すると彼の病気は皆に知られているために、ギターが持ってこられて、彼はすぐにそのハーモニーを認識すると、まず足を動かし始め、まもなく脚全体を動かした。彼は膝立ちになった。それからふらふらと立ち上がった。ついには4分の1時間ほど飛び跳ね、ほとんど3パームの高さまで跳び上がった。ため息を吐き、そのように大きく弾んでいたので見物人を怯えさせたが、一時間前には、黒い色が手や顔から消え失せ、彼は元の色を取り戻した。」
原因としてクモの神経毒によると古くから信じられていますがその証拠は発見されておらず、集団心因性疾患とも言われています。
そしてその唯一の治療法は、なんと「音楽」。非常にリズミカルで早い音楽が治療に必要で、この病気の治療のための職業的音楽集団まで居て、雇われてギターや太鼓で解毒用のダンス音楽を奏で、患者はそれに合わせて体を激しく動かし踊ることで治癒が起きたというのです。次の写真はその解毒用の楽譜。
ではその解毒用音楽をお聞きください。治療のために16世紀から17世紀ころに使われたギターは、ルネサンスギターかバロックギター、それらの亜種のようなギターだったのでしょうね。
どうもこういう症状は今も風土的にあるようです。舞踏病をなおす音楽という世にも不思議なお話しですが、これが後のあまたのクラシック音楽のタランテラの由来のひとつになり、タランテラのダンスが生まれ、バレーにもなったりするのです。↓