あれこれいろいろ

楽器材の重さ、硬さ、内部損失など 楽器材選択に関するメモ

<木材の音響を分析する三つの視点>

・重さ(気管比重、密度)

・硬さ(ヤング率、剛性、変形しにくさ)

・内部損失(損失係数、損失正接)

①重さ(気管比重)…乾燥した木材の重さを、同じ体積の4°Cの水の重さを1として数値化

・軽い木材(気管比重が小さい)→小さなエネルギーで振動する(効率的に振動する)ので、大きく鳴りやすい。振動しやすい結果、開放的、元気、活発、明るく、抜けのよい、軽やか、マイルドなどの音質感につながる。

・重い木材(気管比重が大きい)→振動に大きなエネルギーを要するため鳴りにくいが、鳴らせば太い重量感、パワーと芯のある感じ、落ち着きのある音質感、慣性が働いて長く響くサスティンにつながる。

②硬さ(曲げヤング係数₌変形しにくさ・剛性率・弾性率)とは… ヤング係数は木材の硬さを示す指標のひとつで、ヤング率が高いほど、構造物の剛性が高く変形しにくい。単位はPA(パスカル)又はGPa(ギガパスカル)。

・硬い木材(ヤング率が高い)→音が早く伝わり(伝播速度が速い)、力強い音、芯の通った音、立ち上がりのよい音、シャープで明瞭な音、明るくクリア、音ヌケ感、透明感、高音部が共鳴しやすい(固有振動数が高くなる)という傾向に繋がる。また、硬い材は、内部損失が低いため、煌びやかな倍音が多く残り、艶がある、個性がある音につながる。さらに、硬い材は振動が規則的になりやすく、倍音が整ったクリアな音色につながる。なお、硬さが効き過ぎれば、硬い音、緊張感、キンキンした音という感じになる。

・柔らかい木材(ヤング率が低い)→耳なじみの良い音、軟らかく暖かい音、包み込むような優しいサウンド、情緒的で繊細な感覚、中低音域が共鳴しやすい(固有振動数が低くなる)、落ち着き、良い意味での素朴さという傾向に繋がる。ただし、柔らかすぎると輪郭があいまいなぼやけた感じ、高周波の細かい振動が吸収されてしまうため倍音が少なめで地味すぎる感じ、に繋がる。

⇒以上①と②により、特に楽器の響板材には、軽くて硬い木が適切と考えられる。そこで、「軽さに対する硬さ」の指標として「比ヤング率(ヤング率÷密度)」が参考になる。比ヤング率が高い、すなわち軽量なのに高剛性という性質は、例えば航空宇宙やスポーツ器具など様々な分野で重視されるが、楽器分野でも大切なポイント。それは豊かな音量と、早い伝播速度による音の瞬時の立ち上がり、豊かな高音域特性を示す材で、比ヤング率が高い材の典型がスプルース。

③内部損失とは…材料が振動する際に、その振動エネルギーの一部が、木材繊維の摩擦や空気抵抗や内部水分による振動エネルギーの熱変換等により失われる現象のこと。「損失正接(tanδ)」という数値で評価される。木の条件や部位などで変動する。

・内部損失が小さい→響きやすい。振動が減衰しにくく、音が長く響く。倍音が吸収されることなく豊かに残るので、艶のある、輝きのある、個性のある音につながる。スプルースやローズウッドは、損失が小さい材の典型と言われている。

・内部損失が大きい→音のエネルギーが失われやすい。振動がすぐに収まってしまい、余韻が短い。デッドな材と言われる。また、内部損失が多いと、高次の倍音が少ない傾向になり、単調、平坦、奥行きや広がりが少ない、艶がない、個性がない、煌びやかさがない、目立たない、音が埋もれて遠くまで届きにくい、などの印象になる。しかし、これが長所となることもあり、ハワイアンコア材は内部損失は比較的大きくサステインが短いが、それがコロコロした素朴なかわいらしい音として、ウクレレの魅力のひとつとなる。倍音が少ないことで、とげとげしさが取れた優しい丸い音の印象にもつながる。

内部損失に影響する要素は以下のように様々。↓

内部の水分が多いと水分にエネルギーが吸収されるので内部損失が大きくなる。したがって乾燥が大きなカギになる。ヴァイオリンやギターでは、通常、人工乾燥で5-10%程度の含水率まで乾燥させる。自由水のみならず、細胞内の結合水まで乾燥させる。日本の気候下の平衡含水率は15%、ヨーロッパでは10-12%が標準であるが、それ以下まで一旦乾燥させる。そうすると、自然の調湿作用により水分を吸収しても、比較的低めの平衡含水率に止まる傾向がある(ヒステレシスという)。なお5%よりも低下させると材木の強度が下がる。(台湾大学の研究によれば、ストラディヴァリウスは、ホウ素、亜鉛、銅、ミョウバン、石灰水が含まれた薬品で処理された形跡があり、この処理によりセルロースの構造が変化して強くなり、ヘミセルロースが断片化し、木材の水分量は25%も低減したという)

材の中に空隙が多いからといって、空気自体は振動を吸収しないので、内部損失が大きくるとは限らない(一般に広葉樹も針葉樹も乾燥木の体積の70%は空隙である。実際スプルースのような、空隙が多い材も効率よく振動し、長いサスティンを示す)が、材木の孔(導管や仮導管)が大きく数が多い場合、孔中の壁面との摩擦や細胞壁の粘弾性によって、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて内部摩擦が生じる。針葉樹の場合は、組織の90%以上が仮導管に占められている(導管はない)が、構造が単純で規則的なため内部損失は小さいが、広葉樹の場合は、太い導管を持ち、構造が複雑(環孔材、散孔材、放射孔材)なので、特に導管が太い環孔材は内部損失が大きいので楽器材にはあまり使用されない。もっとも、環孔材の中にも、時間経過とともに、細胞内の物質が孔の中に出てきて孔を塞ぐチロースを形成する材木もある(ケヤキ、クワ、ホワイトオークなど)ので、その場合は内部損失は小さい(余談だが、ホワイトオークは、チロースによって水を通さなくなるので、古くからヨーロッパの酒樽や造船材としてホワイトオークが使われた)。内部損失が大きいから楽器材としてただちに不適というわけではなく、特定の周波数を吸収したり強調したりすることで、音に独特の個性が出ることもある。適材適所。

材木内の油分は、硬化して内部の空隙を満たし構造を緻密化することで振動エネルギーを失いにくくし、振動が減衰しにくくする効果がある。特に高音域の振動減衰を抑え、倍音の多いクリアな音色に寄与する。しかし、油分が多すぎると重量が増加し、逆に振動効率が落ちるし、硬化しない性質の油分は振動を吸収してしまい、逆に響かない音になる可能性もある。

重い木は、慣性が働いて、振動が続きやすい。

広葉樹は、針葉樹よりも組織構造が複雑で不均一なので、内部摩擦を増やしがちで、内部損失につながりやすい。

硬い木(ヤング率が高い木)は、内部でエネルギーが吸収されにくく、内部損失が小さい。柔らかい木は、内部損失が大きい傾向で、高周波の細かい振動が吸収されてしまい、倍音が少なめになる。

木目の方向によって内部損失が異なり、一般に板目方向の方が柾目方向よりも内部損失が大きく振動が減衰しやすい。→響板には柾目が使われる。

一般的に木材は数百年のエージング(熟成)により内部損失が減少し響きやすくなる。セルロースと油分の硬化乾燥による。

振動の振幅が非常に大きい場合や、長時間持続的に振動を与えた場合、内部損失が変化することがあると言われている(速度過程論)…この速度過程論では、振動による熱で木材中の水分や微小構造が再配置され、振動しやすい状態へ安定化していく過程として考察する。響板材が高周波において優れた音響特性を示すことを、内部摩擦の低減や剪断特性の関係から解析する。これに対しては、微小構造の再配置などあり得ないとして、強い否定の学者意見もある。

<以上を前提に、特に重さと硬さの点から、代表的な材の特性を見る> 軽軟から重厚へ順

桐 非常に柔らかく(繊維方向のヤング率3.5-6.5Gpa)、非常に軽い(気乾比重0.19-0.30)、比ヤング率10-20㎬ → 豊かな音量、丸く温かみのある音、耳障りな高音が吸収される (琴、琵琶) ※桐材は、あまりにも軽く柔らかいので音響が良さそうに見えないが、非常に密度が小さいので、比ヤング率は10-20㎬と高くなり、軽さに対する剛性がかなり高い。そのため良い音響特性がある。

シダー とても軟かく(ヤング率7-13)、非常に軽い(比重0.38)、比ヤング15-25㎬ → 温かく、甘い響き 反応が良い、良く鳴る (ギター響板)

屋久杉 柔らく(ヤング率7-13Gpa以上)、非常に軽い(比重0.38)、比ヤング率不明18-30以上 → 温かく、甘い響き  良く鳴る (ギター響板)

スプルース  やや硬く(ヤング率10-15Gpa)、 軽い(比重0.51)、比ヤング率20-30㎬→ 明るく、豊かな響き、音の立ち上がりがよい、よく鳴る (ギター、ヴァイオリン、ピアノの響板)

マホガニー  硬さは中程度(ヤング率9-12Gpa)で、軽さも中程度(比重0.51-0.65)、比ヤング率15-25㎬ → 温かく優しいサウンド、豊かな中低音域、深み (ギター表裏、)

ウォルナット やや硬く(ヤング率10-13Gpa)、やや重い(比重0.55-0.63)、比ヤング率20Gpaほど → 剛性があるため明るく歯切れよくアタック感があり、中低音の豊かさと深みもある (ギター表裏)

・メイプル  硬くて(ヤング率12-13Gpa)、重い (比重0.71~0.72)、比ヤング率17-19Gpa→ 明瞭で、アタック感のある音 (ギター裏板、指板、ネック)

・ローズウッド  硬くて(ヤング率11-14Gpa)、かなり重い (比重0.75~1.10)、比ヤング率12-15Gpa→  深く、低音がしっかり響き、伸びのある音色、高級感のあるキラキラした音、オールマイティな感じ (ギター裏板、指板)

・黒檀 非常に硬く(ヤング率13-22Gpa)、非常に重い(比重1-1.09以上)、比ヤング率13-20Gpa →(指板)

※響板材としては、軽い木の中で比ヤング率が20-25に達するものが第一候補という感じか。中程度の重さと硬さの木もバランスとして悪くない。重い木は、そもそも大きく鳴りにくいので、あまり適切でないことが多そう。あまり楽器材に用いられない材の比ヤング率を見てみると、チーク10-13、シイノキ10-15、ホオノキ15、カツラ15-18、ヒノキ18-20、スギ20、クリ18-21、ケヤキ18-26、など低いものから高いものまで様々あり、多くの可能性がある。

<楽器部位ごとに適切な材を考える必要>

〇表板(響板、トップ、サウンドボード)…弦の振動が表板に伝わり最初に増幅される部分で、表板の材質により色付けがされる。響板は基本的にきちんと大きく鳴ることが基本的性能として必要なので、基本的に軽いものがよい。よく鳴ることと同時に、芯のある、力強い、立ち上がりのよい音であることも必要なので、硬さも欠かせない。軽さと硬さの両立、又はどちらも中庸のバランスのよさ。

スプルースがもっとも良く使われ、次いでシダー、マホガニー、ウォルナット、日本では時々屋久杉、和楽器では桐(琴や琵琶)や桑(総桑の琵琶)など

〇裏板(バック)と側板(サイド)…表板で増幅された弦の振動は、裏板と側板で囲まれて作られた空間内部で反射を繰り返してさらに増幅され、最終的にサウンドホールから出力される。裏板と側板の反射効率(吸収と反射の程度)による音の色付けがされる。

ローズウッド、メープル、マホガニー、ウォルナット、和楽器では桑、欅など

〇ネック、棹…音響上は音の伝達速度が速い硬い木が良いが、材の経年安定性や持ちやすさの観点から重すぎず軽すぎずなどの点も重視されてくるので、比較的中庸な硬さのものが使われている。三味線や三線の世界では、棹が音響の命と言われ、特に硬さがより重視される。楽器構造の違いに由来する発想の違いがみられる。

マホガニー、メープルなど、三味線では黒檀、紅木、花梨など

〇指板…ネックの一部とも言えるので硬い木がよく、耐摩耗性も重視される。

黒檀、ローズウッド、メープルなどが使われる。

〇その他、例えば、木ペグなどは、摩擦の程度から回しやすさと固定しやすさなど考慮して、黒檀、メープル、ツゲなどが使われる。

〇ブリッジや駒…弦の振動を響板に伝える橋渡し部分なのでここも音色に大きな影響がある。振動を損失が少なく効率よく伝えるために硬い材が使われる。チェロのエンドピンは、建物全体を共鳴箱のようにするという点で、ブリッジと非常に似た機能を果たしており、同じような材が使われている。ギターは黒檀(エボニー)やローズウッド、ヴァイオリンはメープル、チェロのエンドピンは黒檀やローズウッドやツゲ(ボックスウッド)など。

〇リコーダーの場合…リコーダーは、管体自体が振動して音を鳴らす楽器ではなく、内部の空気の柱である気柱の振動が音を作る楽器で、木は気柱の入れ物になっているにすぎない。したがって、管体の振動効率や固有振動率が直接的に音を決める要素にはならない。しかし、材質によって、木柱の壁としての反応が異なり、音質に影響する。硬さの程度で基本的な方向性がわかれるが、材種によって倍音構成も様々な特質が出る。全体としては、ギター材なら裏板側板に使われるような硬めの木が使われている。壁が音を跳ね返すという点で、裏板側板と同じ機能。

硬い木…壁が空気の振動を跳ね返しやすく、エネルギーの損失が小さいため、音がクリアになり、高音域のピッチが安定する。黒檀など

柔らかい木…壁が空気の振動の一部を吸収するため、音が柔らかく感じられる。メープルなど。

材種による個性…メイプルはソフトで明瞭でアンサンブルに馴染む、ベアウッド(梨)は素直で芯がある、ローズウッドや黒檀は倍音が多く強力で光沢がある音、など。

リコーダーの材種と硬さの関係図

RELATED POST