固有振動数メモ
固有振動数とは、物体が自然に振動する周波数のこと。あらゆる物質と構造物は、それぞれの条件下特有の固有振動数を計測することができる。
楽器の場合、この固有振動数が音の高さ(ピッチ)を決定する。楽器に外部から振動が加えられたとき、その振動の周波数が楽器の固有振動数と一致すると、楽器は強く振動し、「共鳴」して大きな音を出す。物体の固有振動数が高ければ高い音に共鳴し、固有振動数が低ければ低い音に共鳴する。(その共鳴する固有振動数を基音とする倍音も共鳴する)
例えば、木琴やマリンバの音板で、木の固有振動数の変化をみると、
・重さ(比重・密度)の変化→比重の重い音板は固有振動数は低くなり、比重の軽い音板は固有振動数は高くなる。
・硬さ(ヤング率)の変化→硬い(ヤング率が高い)材質の音板は固有振動数は高くなり、柔らかい材質の音板は固有振動数は低くなる。
・長さや形状の変化→音板が長いと固有振動数は低くなり、音板が短いと固有振動数は高くなる。また音板の裏の中央を削ると音は低くなり、裏の端(節の外側)を削ると音は高くなる。
このような木材単体の楽器だけでなく、ギターやヴァイオリンなど部材を組み合わせて作る構造物の楽器も、楽器各部をコンコンと叩いて見れば、場所ごとに様々な固有振動数があることがわかる。構造物の固有振動数に影響する要素は、次のようにマリンバなどの単体の楽器と基本的に同じ要素が構造物全体として作用する。
・全体の重さ →密度高く重く作られた構造物は固有振動数は低くなり、軽く作られていれば固有振動数は高くなる。
・全体の硬さ →がっちり頑丈に組み立てられていれば硬い構造物として固有振動数は高くなり、柔らかく作られていれば固有振動数は低くなる。また、湿気が多いと木部が膨張してしっかりかみ合うことで剛性が高くなるのでピッチが高くなることが報告されている。
・構造物の大きさ、形状、開口部の大きさや位置、内部部材の配置形状寸法(ブレイス、バスバー、魂柱など)、接合方法などが変われば、固有振動数の分散状態も変化する。 建物建築の例が参考になる。高い建物の固有振動数は低くなるし、窓などの開口部の位置や数、柱や梁の配置や寸法、その接合方法などで、固有振動数は変化する。地震や騒音対策のために建築の共振が研究され、特定の周波数に共鳴が起こらないように工夫がされている。
楽器の場合は、建物とは逆になるべく共鳴が起こるように工夫される。それも、特定の音だけが共鳴するのではなく、音域の全体に渡って、バランスよく共鳴するように、あらゆる面で工夫された構造物である。
楽器の大きさ、形状、板厚、材種選択など、あらゆる面が共鳴する固有振動数を変動させるるが、特にギター響板のブレイス(力木=建物で言えば梁や桁)、ヴァイオリンの魂柱(建物で言えば柱)やバスバー(これも梁や桁)、ヴァイオリンのF字孔やギターホールの位置大きさ形状(建物で言えば窓や戸の配置形状)などの工夫は、楽器の固有振動数の変化をコントロールして最高の共鳴を探求する試みである。ブレイスを通してその部分の剛性が高くなり振動の伝達方向と速度が変わる。左右対称に入れる考え方と、対称性を破る作り方がある。1弦から6弦まで弦のテンションが異なるから、左右不対称であることは理に叶っている。
響板の表をコンコン叩いてみると様々な固有振動数が部位ごとに分散しているが、楽器の音域全部にバランスよく共鳴できるように、響板上に様々な固有振動数が満遍なく分散していることが重要で、多くの異なる高さの音に共鳴し、豊かな表現力を持つ「優れた楽器」となるための要になる。また、低音側に強く共鳴する楽器とか、高音側に強く共鳴する楽器など、固有振動数の分布をあえて偏らせ、好みの個性の楽器をつくるという方向性も考えられる。
製作中の楽器の共鳴状態を調べるために、様々な方法が試みられている。機械的な振動検査をしたり、音叉を響板のあちこちに当てて音がデッドな部分を探したり、あちこちコンコン叩いて各部の音に耳を傾けたり、響板上に砂を撒いた状態で振動を与えて砂の移動によってできる図形で視覚化を試みたり、など。
製作者ごとに、それぞれの目的に合わせて、材の選択、ボディ形状、厚み、ブレイスの配置形状太さ、接合の仕方などを変える試みをしている。過去の巨匠作家の作り方を踏襲するタイプ、様々な新工夫を凝らすタイプなど、様々であるが、いずれも優れた共鳴を求める試みである。
