あれこれいろいろ

能をずっと高速にしてみると 

雅楽は1000年で10倍以上遅くなったという前回の話をヒントに、次の「翁」という1時間ほどの能(おめでたいことを次々に言って老人が舞う演目)を、想像上で5分ほどに圧縮してみたら果たしてどうなるか?

すると、しずしずと進む足さばきは正確な高速ステップになり、舞台をドンドンと踏み鳴らす動作はあたかもフラメンコのごとく。

ゆっくりとした謡いの「とうとうたらりたらりら、たらりあがりららりとう」というのは、「ドンドン」という打楽器と「タリヤタラリ」という笛の音によるにぎやかな祝福の一団の表現なのですが、これはますますもって賑やかに。

めでたいもの尽くしの中の、「総角(あげまき)やとんどや、尋(いろ)ばかりやとんどや、坐していたれども、参られんげりやとんどや」というところの元々の意味は、※「総角を結った少年と少女が、離れて寝たけれど、いつのまにか転びあってぴったりと抱き合ってしまったよ」という若き日のドキドキする瞬間(はっきり言えば性行為)の表現だったそうで、これなどもいやが上にもおめでたく。

ということで、日本の芸能の始まりと言われる、天宇受賣命(天鈿女命、アメノウズメ)の踊りの雰囲気に、ぐっと近づいてくるような気もします。能が昔は早かったという説を唱えようというわけではないのですが、あのゆっくりとした舞の内には、非常に活気のあるスピード感が込められているのではないかと思うのです。

アメノウズメの踊りの様子の解説抜粋 ☟

槽伏(うけふ)せて踏み轟こし、神懸かりして胸乳かきいで裳緒(もひも)を陰(ほと=女陰)に押し垂れき。」 つまり、 アメノウズメがうつぶせにした槽(うけ 特殊な桶)の上に乗り、背をそり胸乳をあらわにし、裳の紐を女陰まで押したれて、低く腰を落して足を踏みとどろかし(『日本書紀』では千草を巻いた矛、『古事記』では笹葉を振り)、力強くエロティックな動作で踊って、八百万の神々を大笑いさせた。その「笑ひえらぐ」様を不審に思い、戸を少し開けた天照大神に「あなたより尊い神が生まれた」とウズメは言って、天手力男神に引き出して貰って、再び世界に光が戻った。

※ 古代歌謡催馬楽の「総角やとうとう、尋ばかりやとうとう、離りて寝たれども、転びあひけりとうとう、か寄りあひけりとうとう」が元になっている。