ドローンを担当する楽器の中でもインドのタンブーラは、その単純さと芳醇さにおいて究極の進化系かも。四本の弦がありますが、弦を押さえて音程を変えることはなく、開放弦のまま鳴らすだけです。旋律を弾くこともなく、ただ順番に弦を鳴らしていきます。特別に難しい奏法を駆使することもなく、指の腹で弦に触れて途切れなくじゅわーんと音を出し続け、音が自己主張することはありません。舞台で他の楽器奏者の名前が紹介されるときも、タンプーラ奏者の名前の紹介は省かれることもあります。音も奏者もすっかり楽曲の背景に溶け込んで、そんな黒子のような存在なのに一旦タンプーラが鳴り出せば、日常の喜怒哀楽を超越した広大な異世界に聴く者はすっと連れ込まれます。そこにいざなわれたことに気付かないくらいさりげなく。音楽が一般に音の存在感を高めることによって成し遂げようとしたことを、ドローンは背景に隠れることで成し遂げているかのよう。旋律を奏でる楽器の旋律やリズムが変化しても、タンプーラは何も変化せず、ずっと同じ川の流れのように鳴り続けています。この川の流れの上で激しい音楽が流れても静かな音楽が流れても、ドローンは表情ひとつ変えることなく背景で広大な世界を作り続けています。これは音楽のもうひとつの進化系なのかもしれません。
タンプーラの詳細は次の解説にとても詳しくまとめられています。☟
参考 タンプーラ解説