ルネサンスギター

ルネサンスギターと酒樽

1733年にフロリダ沖で沈没したスペイン船サンフェルナンド号から引き揚げられた4コース8弦ギター(ルネサンスギターの一種)のネック部分の詳細がこちら。

300年近く海中にあったので、劣化により寸法はある程度変わっている可能性があるのですが、それも考慮して、ネックの根元部分(ボディとの接合部分)の太さは縦横とも4.5センチほどであったと推測されます。

この当時の帆船には、何か月にも及ぶ長期航海のお供となる船舶用小型ギターがあった可能性があると推測しているのですが、この4.5センチという横幅は現代のウクレレと全く同じです。現代のウクレレもボディが薄いウスレレはトラベルウクレレと呼ばれたりすることもあり、旅のお供にしやすい形状なのは今も昔も変わりません。

そのような長期航海用小型ギターがあったとすれば、それは陸上の楽器製作工房で量産されたでしょうが、船乗り自身が長期航海の中で自作した可能性もあるのではないか、という友人の山田氏からのヒントがあり、さらに当時の酒樽に使われていた板の寸法がネックを作るのに丁度よいという示唆もいただきました。

確かに当時の長期航海には水用の樽、ワインやラム酒などの酒樽(アルコールは腐らないので必需品だった)、その他種々の食材を入れる樽など、樽は大量に積載されていました。ある資料によれば、円周77インチほどの酒樽の周囲に22から30枚の側板をめぐらせて50ガロン(180リットル)の酒樽ができるそうで、そうすると側板1枚の幅は6.5~8.9センチくらいで、ギターのネックやサイドの板を取るにはおあつらえ向きです。実際私が楽器を製作するときにも、そのくらいの幅の材から加工してネックを製作しています。

樽の素材はホワイトオークが一般です(アメリカ大陸産ならレッドオークも)。オークはナラの一種で、当時のヨーロッパには各地にオークの原生林がたくさん残っており、船舶、家屋、家具、樽などの製作に多用されていました。樽は劣化するまで何度も再利用されましたが、それでも船舶には加工できる使用済み材はそれなりに豊富だったはずです。

樽製作時には、樽の含水率は10%前後まで乾燥させてあり(しっかり乾燥させないと水や食材はすぐに腐ってしまうため)、その点でも楽器用材に向いていたようです。

船員がギターの製作技術を有していたかという点については、当時の船員は自分で船の修理をするのが当然で、海賊や探検者の実話などを呼んでいても、嵐で大破した二隻の帆船を合わせて一隻の帆船を作りあげ航海を続けたなどという話があたりまえに出てきます。非常に高い木材加工技術と道具を持っていた可能性があり、粗削りな楽器を作ることくらいは暇つぶしに丁度よかったかもしれません。船の加工の際には火で熱して材を曲げる作業もあったでしょうから、ギターのサイドを曲げてくびれを作ることもさほど難しくなかったでしょう。またサイドを曲げないで箱型の胴体を作ることもあったかもしれません。マダガスカル島は当時のヨーロッパ海賊の基地として利用されたことがあることが知られていますが、マダガスカル島にはカボシーという名前の箱型胴体の大小様々の4コースギターが使用されており、もしかしたら海賊が自作したギターなどの名残りという可能性もありそうです。

マダガスカル島のカボシーの形と音↓

洋樽について pdf資料

 

RELATED POST