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親方を見る 木工上達の早道1

昔、家具職人の先生に木工を習っていたころ、何度も「先生のやることをちゃんと見て」と言われました。それはもう、「しつこいんだから、先生はっ!」と思うほど繰り返し言われました。こちらとしては十分に見ているつもりだったのですが、先生からすると、もっと見てほしいと思うようでした。

その後私も、少しだけですが人に教える経験をして、やはり同じことを感じました。先生側にまわってみると、こんなふうに感じます。

「ここを見てくれていると、「これはですね…」と自分のマスターしたことを教えることができるのに…。見てくれていないと教え始めることができない…。」

見てくれてないと、最初の教えの扉を開けない感じがするのです。

さらに、見てくれていると、「このやり方はですね…」と本式のやり方を説明するという形から入れるので、プロ基準からスタートすることができるのですが、見てくれていないと、素人のやり方を修正するという形が多くなって、スタートラインが素人の位置に来てしまうのです。スタートラインが圧倒的にちがってしまうのです。

また、やり方を修正するという教え方が多くなると、教える方も教わる方もストレスが多くなりますから、ほめながら楽しく教えるためには、「もっと見て。もっとまねして。そうしたら教えられることがたくさんあるから」といつも思うわけです。私に教えてくれた先生が「もっと見て」としつこく言っていたのも、同じ気持ちだったのかもしれません。

親方が弟子に長期間見習いをさせるという昔ながらのやり方は、不合理に厳しかったり不親切だったりというあまり賛成できない面もありますが、親方のやり方を徹底的に見るという点はかなり重要なことをしているのだと思います。弟子のスタートラインを親方のプロレベルに引っぱって持ってくるために大切な過程だったのだろうと思います。昔の親方がやたらに秘密主義だったりしてなかなか見せてくれなかったりしたのも、親方のやりかたを見たいという気持ちを起こさせるための裏技みたいなものだったかもしれません。

先生のやることを徹底的に見ている人は、おそらくかなり速やかにプロの仕事を始められるだろうと思います。なにしろスタートラインが最初からプロの位置ですから、百メートル走のゴール付近から走り始めるようなものです。よく見る弟子がいて、親切にけちることなく教えようという親方が合えば、誰よりも楽しくやって、ほぼ無敵の速さで上達するんじゃないかと思うのです。