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ギリシャ神話とフィンランド叙事詩カレワラに見る「理想の楽器」の姿とは

フィンランドの神話学者М・ハービオは、ギリシャからフィンランドまで神話のストーリーの伝播が見られるとして、「エジプト→ビザンチン・ギリシャ→ロシア→カレリア(フィンランド南東部付近)」という伝播経路を提唱していることを先日紹介しましたが、ギリシャ神話とフィンランド叙事詩カレワラに出てくる琴の効果を見てみましょう。

まずギリシャ神話のオルフェウスが竪琴を弾いたときはこんなことになります。

「神も人も聞きほれ、鳥や森の野獣も聴きに集まり、木々はこずえを垂れて耳をすませ、空の雲もいっそう美しく輝きながらゆっくりとただよい、小川は彼の歌に合わせてやさしい水音をたててさらさらと流れ、岩はやわらかくなってしまう」ということになります。またオルフェウスが冥界を行く道すがら、行く手を妨げる者たちに向かって竪琴を弾くと、みんな感動して道を開けて通してくれてオルフェウスの望みを聞いてくれるということになります。

次にフィンランド叙事詩「カレワラ」の偉大な歌い手ヴァイナモイネンが、巨大なカマスの骨で作った最初のカンテレを弾いたときはこんなことになります。

「森中から、リス、オコジョ、トナカイ、クマなど大小の生き物たちが集まって来て、用心深い老人も老女も男の子も女の子もお祭りの晴れ着を着て集まって来て、ワシ、タカ、カモ、ヒバリなど鳥たちも飛んで来て、大気の乙女、月の精と太陽の精も惹きつけて、カワカマス、オオサンショウウオ、サケ、コクチマス、コイ、タナゴなど魚の群れもカンテレの演奏を聞きに来て、水の老主人と水の女主人も現れて聞きほれる」ということになります。また、ヴァイナモイネンを殺そうとするポホヨラの者たちに対抗する武器としてカマスの骨のカンテレを弾くと、「ポホヨラの隅々から村人たちが集まってきて、女たちは笑いさざめき、男たちは感動のあまりうれし泣きに泣いて、その後ポホヨラの人たちはゆったりと寛いで目がとろりとしてきて、老若男女みんなぐっすりと眠ってしまう」ということになります。

ヴァイナモイネンが白樺の木で作った二番目のカンテレを弾いたときはこうです。

「ヴァイナモイネンがカンテレを奏でると、カッコウの金と銀が響き、乙女の髪が喜びにふるえ、山は鳴動し、岩が音を立て、崖がゆれ、老いた松の木が歓喜に目覚め、切り株まで飛び跳ね、乙女たちは手仕事を途中で止めて聞きに来て、男たちは帽子を手にして立ち止まり、老婆はほほに手を当て、娘は目に涙を浮かべ、少年たちはひざをついて新しい喜びにひたり、演奏は六つの村にひびきわたり、森の生き物たちは地に伏して聞きほれ、空の鳥は飛びまわって演奏を讃え、水中の魚は岸に泳いできて、土の中の虫も地面から顔を出し、末の老木で作った部屋で弾くと天井が共鳴し屋根が笑い扉が歌いすべての窓が喜び、森を歩くとモミの木もマツの木もヴァイナモイネンに挨拶してくる」ということになります。

どうやらオルフェウスの竪琴とヴァイナモイネンのカンテレの効果をまとめるとこんなことになりそうです。

「想像できる限りのあらゆるものを引き寄せて感動と喜びをもたらし、聴く者の心から敵対や妨害の気持ちもなくしてしまう」

なるほどこれが人類が思う究極の理想の楽器でしょうか。