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ガット弦の古い記録 キノール&ネベル

現在クラシックギターなどナイロン弦ギターのことをガットギターと呼んだりしますが、それはナイロンが登場する以前はガット弦が張られていたからです。ナイロンは1935年に開発された素材なので、楽器の歴史の中ではごく最近のことです。それ以前のガット弦の歴史はずっと古いのです。

ガット弦の歴史をたどると、旧約聖書に出てくる「キノール」というリラ属の楽器には羊の小腸が張られていたそうです。

ダビデ(起源前1000年頃のイスラエルの王)のベッドにキノールが掛けてあったとタルムードに出てくるので、今から3000年も前の楽器です。実際、キノール奏者を描いた紀元前1180年の象牙彫りがイスラエルのメギドで発見されており、冒頭の絵がそれです。

フラビウスヨセフスの著述や口伝集ミシュナという資料から、キノールという楽器の内容がわかるのですが、キノールは糸杉や白檀で作られ、10弦をもち、弦には羊の小腸が張られ、小さなスティック(プレクトラム)や指で弾かれたとあります。

タルムードの伝説にはこのように書かれてあります。

「キノールはダビデのベッドにかけてあった。夜半、北風が吹きかけると弦が鳴り、美しい音を響かせた。するとダビデは起き上がって、トラー(律法)の勉強をし始めた。」

「なぜ、それはキネレットと言われたか…その果実はキノールの音楽のように甘いから。」

キノールは甘い美しい音色だったのですね。

もうひとつ旧約聖書に出てくる「ネベル」という大型のリラ属の楽器には羊の大腸か張られていたとか。フラビウスヨセフスの著述やタルムードによると、ネベルは12弦で、指でかき鳴らされ、太めの低い音だったそうです。当時のユダヤの神殿の儀式音楽では、キノールが第一の主要楽器で、ネベルがそれに次ぐ第二の主要楽器だったようです。

羊の腸を弦に使う伝統は実に古いのですね。

考えてみれば、ダビデは羊飼いからイスラエルの王になったというくらいですから、この時代の楽器に羊の腸が使われていたのはごく自然ななりゆきだったのかもしれません。