あれこれいろいろ

スコットランドのゲール語の作業歌 waulking song

毛織物製造の一工程に、タッキング(tucking)、ウォーキング(waulking)、フリング(fulling)などと呼ばれる布の油分や汚れを取り除く洗浄作業があり、摩擦や圧力で縮ませて滑らかなしっかりとした布地になります。14世紀フランドルのダッフルクロスや、16世紀以降オーストリアのローデンなどヨーロッパ各地にその例がありますが、中でもこの作業と歌が結びついた例が、スコットランドの女性たちがケルト系言語のゲール語で歌うwaulking songです。女性たちが歌いながらテーブルなどにリズミカルに打ち付けて布を回していく様子が、踊りのようにも見えます。飽き飽きするような単調な作業も、これなら効率よく楽しくやれそうです。製品の安定的な品質確保にも役立ちそう。↓

このウオーキングソングは、ゆっくりとしたテンポから始まることが多く、布が柔らかくなるにつれてテンポが上がっていきます。唄い手は布を動かしながら、徐々に布を左にずらしていき、徹底的に布を動かします。布を反時計回りに動かすと不吉だという言い伝えもあります。通常、一人が詩を歌い、他の人がコーラスに加わります。唄い手は、唄われるツイードの長さや大きさによって、詩を加えたり省いたり、即興で地元で知られている出来事や人物を歌うこともあります。

中世から存在する伝統のようですが、産業革命以後、石炭や電気の動力を使用するようになってから、この歌の作業は行われなくなっていきました。今日ではスコットランドではアウター・ヘブリディーズ諸島に限られており、布を作るための真のウォーキングとしては1950年代に行われたのが最後と考えられています。

ケルト音楽をテーマに音楽活動をしているエンヤも、このウオーキングソングを素材にした曲を発表しています。