ルネサンスギター

セルバンテスも愛したルネサンスギター

ドン・キホーテの作者セルバンテス(1547-1616)の作品には、ルネサンスギターやビウエラが何度も登場します。

音楽学者のミゲル・ケロール・ガルバダは、その著書 La música en las obras de Cervantes で、「セルバンテスがギターについて書いた箇所を集めると、それだけで何ページもの本になる、セルバンテスがギターに言及する回数の多さはギターの当時の人気を直接的に反映している、セルバンテスはギターに関する知識が豊富で、彼は片腕になる前は自身がギター演奏者だったと考えられる」という趣旨のことを書いています。

また歴史家のM.ソリアーノ・フエルテスは、その著書「historia de la música」の中で、「セルバンテスは自身ビウエラを演奏し音楽を完全に理解していたと言われている、セルバンテスは作品の中で音楽を絶え間なく賞賛しており彼は音楽の愛好家であった」という趣旨のことを書いています。

ドン・キホーテの作者ドン・ミゲル・デ・セルバンテス・サベドラ(Don Miguel de Cervantes Saavedra )は、ルネサンスギターもビウエラもかなりの腕前だった可能性が高そうです。

「セルバンテスがこよなく愛したルネサンスギター」ってちょっと良くないですか^^。 ルネサンスギターを製作している身としては、心強い味方を得た気分。スペインでは、ドン・ミゲルと呼んだりもするようなので、「ドン・ミゲルも愛したルネサンスギター」というのも雰囲気あって良いですね。

ドン・ミゲルことセルバンテスの69年の人生は波乱万丈です。1571年にスペイン軍の兵士としてレパントの海戦に参加しトルコ軍と戦い、火縄銃の弾を胸に二発、左腕に一発受けて生き延びます。左手を破壊された瞬間、「ああこれでもうギターは弾けないのか」と思ったにちがいない、というのは私の想像ですが、楽器を弾く人は真っ先にそれを考えたりしがちです。左手をそのものを失ってしまったのか、左手の自由を失っただけなのかは説がわかれているのですが、どちらにしても楽器を弾けなくなっことは間違いなさそうです。治療後軍務を四年間継続してスペインへの帰途、トルコの海賊(バルバリア海賊)に襲われ、アルジェの町に連行され五年間の捕虜生活。その間に四回の脱走未遂でアルジェ総督のハッサン・パシャに驚くべきスペイン人と言われアルジェの有名人になったりします。身代金交渉の末に開放されてスペインに戻ると、戦争物資調達人や徴税吏員となって行く町々で嫌われたり、恨みを買って投獄されたり、その後作家として大人気になり…と、自身が物語の主人公に十分なれそうな人生です。

セルバンテスの作品の登場人物が、ギターやビウエラを生き生きと弾く姿には、左手を失って楽器を弾けなくなったセルバンテスの気持ちが現れているのかもしれません。

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