ウクレレを作りますと、まず弦を張って開放弦でAECGと音合わせをします。そして弦が伸びて音が安定してきたら、12フレットを押さえた音が開放弦の音と比べて1オクターブ上の音とどのくらいずれているかをチューナーではかります。これがずれなしで、ぴったり1オクターブ上の音になっていれば、オクターブピッチはばっちりだ(^^)/、となるというのがざっくりとしたオクターブピッチの考え方です。
プロが作るのだから、オクターブピッチはぴったりになるのが当然だろうと思われるかもしれませんが、この最初の段階ですべての弦が全部ぴったりになることはありません。なぜなら、オクターブピッチは１弦から4弦までの各弦ごとに一律ではないので弦ごとの調整をしないとぴったりになるわけがないからです。さらに、人によって好みの弦高が異なりますが、弦高を変えればオクターブピッチは大きく変わるので、弦高を合わせないのにぴったりになるとかえって困ることがあります。さらにさらに、どこの会社のどの種類の弦を張るかによってオクターブピッチは異なる数値を示してくるので、楽器固有の要素で確定的に決まるものでもないのです。弦が変わればオクターブピッチが変わるということは、ハイGで弾くかローGで弾くかという個人の演奏スタイルでも変わってくるということになります。
こんなわけですから、よくウクレレのレビューで、「〇〇社のウクレレはオクターブピッチがめちゃくちゃで返品ものだ」とか、「〇〇社のは安いのにオクターブピッチがばっちりでおススメ」的なことが書いてありますが、それが本当にウクレレに問題があってずれているのか、弦高や弦の種類やその人の好みなどとのマッチングと調整の問題なのか、この書きぶりだけではなんとも判断できません。
仮に安価なのにオクターブピッチが全部ばっちりなウクレレがあったとして、それを言い換えると、弦高が高すぎるのを調整したらオクターブピッチは全部ずれるということになります。また安価なウクレレには安価な弦が張ってあるでしょうから、いい弦に変えたとたんに、音は良くなるけどオクターブピッチは全部ずれるといことになります。また、オクターブピッチがめちゃめちゃで返品ものに思えるウクレレがあっても、弦高を弾きやすい高さに合わせたら、結果的にオクターブも合ってきて、弾けるウクレレに化ける可能性もあるわけです。
なかなか一筋縄ではいかないですね。
エレキギターなどは、最初から各弦ごとにオクターブ調整ができるように、ドライバーでねじを回して調整できるようになっています。ウクレレでもああいう仕組みがあるとすごく便利です。弦を替えようが、弦高を替えようが、すべての弦を各弦ごとにすぐに調整できます。しかしウクレレはこの小さなボディに簡単な仕組みの楽器ですから、なかなかそうもいかないわけです。
ウクレレでできることは、サドルをはずして、やすりでごりごり削って、サドルの天辺の位置を前後にずらしたり、サドルの天辺の高さを下げることのふたつです。
これは結構難しい作業です。サドルの天辺の位置を前後と上下と、どういう組み合わせでどのくらい変えていくかで微調整していくのですが、この組み合わせの適切な兼ね合いを探りながら音がどのくらい変化するかを正確に予測してサドルを削れる人は少ないでしょう。サドルの幅が3ミリ程度しかなく微調整幅に限りがありますし、サドルの高さも削りすぎれば弦高が低くなりすぎて演奏に堪えないのでこちらも微調整幅に限界があります。この限界の中で演奏性とオクターブピッチがなるべく合うところを探しながら落としどころを探していくのがウクレレのオクターブビッチの合わせ方になります。でも、そんなに苦労しても、張る弦の種類を変えたら、水の泡になる可能性があるので、それをやる価値があるかどうか微妙なところです。
まあこんなわけで、ウクレレ作者としては、サドルをどの程度調整して出荷するか、まったく調整しないで出荷するかは迷いがあるところです。今張ってある弦を基準に、ある程度まで調整することは可能ですが、お客様が弦を張り替えたとたんに、このウクレレはオクターブピッチが全く合ってないから不良品だということになりかねません。逆に全く調整しないで出荷しても、やはり不良品のそしりを受けてしまう危険があります。
結局、今張ってある弦を基準にあまりにもずれているところがあれば、使用可能な範囲に入ってくるように調整はしていますが、これもぴったりに合わせるというよりも、落としどころを探るような微妙な感覚の作業になります。
こんな事情ですから、エレキギターのように各弦ごとに調整ねじがついていない以上、ウクレレではある程度のオクターブピッチの許容範囲を大きくとってもらって、大体のところはオッケーオッケー問題なし(^^)/ というスタンスで臨んでいただくと平和でよろしいかと思います。(*^-^*)
