あれこれいろいろ

モンセラートの朱い本

中世後期スペイン歌謡10曲が記載されている本に、「モンセラートの朱い本」というものがあります。13世紀から14世紀頃の本で、日本なら室町時代です。バルセロナ郊外のモンセラート修道院は多くの巡礼者を集めていたのですが、どうやら巡礼者の中には歌ったり踊ったり浮かれ騒ぐ者も少なくなかったらしく、そういう人たち向けにお手本となる教会推薦模範歌曲を製作したもののようです。

曲集の編集意図にはこう書いてあります。

「巡礼者たちは、ノコギリなる山(モンセラート)の祝されしマリアの教会で起き続ける時、また昼の場においても、時には歌うことや踊ることを望むものであるが、そこ(教会)では誠実かつ敬虔でない歌を歌うべきではない、そのため上と下にいくつか(の歌)が記された。そして、これは、祈りと熟考に身を捧げることを続ける者を妨げることの無いように、誠実に適度に用いるべきである」

巡礼者たちの踊りや歌が誠実でも敬虔でもなかったおかげでこの朱い本が作られ、中世音楽の貴重な資料が現代に伝わることになったわけです。

当時の民衆が大声で歌ったり踊ったりしていた様子が何となく想像できて、それもまた興味深く感じられます。民衆の猥雑や下品に惹かれるわけではないのですが、音楽と共にあった民衆の息吹や生活実感には興味があります。

この朱い本の時代からさらに100年から200年を経てルネサンスギターがスペインに登場してくると、こういう誠実でも敬虔でもないたぐいの曲の伴奏も、ルネサンスギターはたくさんしたことでしょう。

最後にモンセラートの朱い本からの曲をひとつ。誠実かつ敬虔とはこれだ、という音楽です。↓

RELATED POST