冒頭の写真は、ルネサンス時代スペインの有名なビウエラ奏者兼作曲家のミゲル・デ・フエンリャナ(Miguel de Fuenllana・1500年~1579)の曲集、「オルフェオの竪琴(Orphénica Lyra)」第6巻の最初のページです。出版年は1554年となっています。
この曲集は全6巻からなり、ビウエラとルネサンスギターのタブ譜(タブラチュア譜)として182曲が掲載されています。当時はギリシャ神話のオルフェウス(オルフェオ)がビウエラの発明者と考えられていたため、オルフェオの竪琴というタイトルが付けられています。
この曲集は主として6コース楽器用(ビウエラ用)のタブ譜が掲載されているのですが、最終巻の第6巻には、26ページから35ページまで5コース楽器用のタブ譜が掲載され、35ページの途中から42ページの途中まで4コース楽器用(ルネサンスギター用)のタブ譜が掲載されています。
今日注目したいのは、この26ページから35ページまでの5コースギター用のタブ譜の存在。↓
このタブ譜の存在は、ルネサンス時代後半の16世紀に5コースギターが一般的な存在になっていたことを示します。通常、1600年あたり(17世紀はじめ)を境にして、それ以前は4コースのルネサンスギターが盛んだったのが衰退して消滅し、17世紀からは5コースのバロックギターに切り替わって盛んになったというふうに説明されるのですが、実際の変化は漸次ゆるやかなもので、ルネサンス時代にも5コースギターは存在し、バロック時代にも4コースギターは残っていたのではないかと推測されます。
この5コースのルネサンスギターの存在にフォーカスしてみると、新たな視点が開けそうです。現在世界各地に残っている5コースの民俗楽器は、5コースであるという理由からバロックギターの系統であると整理されることが多いのですが、それも再考の余地がありそうです。
ルネサンスギターとバロックギターの2分法で考えるより、4コースギターと5コースギターが混在しながら5コースギターに主流が漸次移行したパターンもあれば、4コースギターが土着化して残ったパターンもあれば、古い5コースギターと新しい5コースギターが混交して変化したパターンもあり、それらが地域と時代と階級ごとに異なる動きをしつつギターの歴史を織りなしているというように、複眼的かつ動態的に見た方が実態を捉えやすいように思います。
ルネサンスギターとバロックギターの2分法は、混沌を明確に整理するのに有効な視点を提供してくれますが、反面混沌の実態を切り捨ててしまい、特にヨーロッパ中枢の進化とは異なる経過をたどる土着ギター類の実態を見えにくくしてしまうきらいがあるように思います。
追加・この5コースギターのチューニングは、通常のルネサンスギターのAECGに続いてDが付け加わるものであるようです。