ルネサンスギター

クロンチョンkrokong その2 16世紀ポルトガルから来た小型のギター

インドネシアの大衆音楽クロンチョンの起源は、16世紀はじめころ。大航海時代のポルトガル船がジャカルタに到達し、ポルトガルの楽器と音楽が持ち込まれ、これがクロンチョンのさきがけとなります。

ポルトガル人が16世紀に持ち込んだ楽器の内訳が、A・T・マヌサマが1918年にバタヴィア新聞に連載したオランダ語の記事に書かれており、ヴァイオリン、フルート、タンバリン、通常のギターをひとまわり小さくしたギター(ペグの部分のネジは五つ、サウンドボックスの素材がカエデ)が持ち込まれたことが紹介されています。そしてこの楽器を演奏した時の音色の擬声語としてクロンチョンという名前が生まれたのだそうです。

16世紀にポルトガルからジャカルタに来た小型ギターは現在のクロンチョンに使われなくなっていてその詳細はわかりませんが、時代からして、ルネサンスギターやバロックギターに近い存在とみてよいと思われます。ペグのネジが五つという意味が不明確ですが、単弦構成の5弦のほか、弦の一部が複弦の4コースの場合なども可能性としてあるので、含みをもたせて不明確な表現になっているのかもしれません。

現在、類似の小型ギターとしては、ポルトガル領のマデイラ島のラジャンが5弦の小型ギターですし、スペイン領ではカナリア諸島のティンプレが5弦の小型ギターです。またベネズエラの小型ギターのクアトロにも、4弦のほかに5弦や複弦のものもあり、メキシコのハラナは5コースの小型ギターです。これらの発生時期はいろいろですが、古くから簡易な小型ギターがあって、大航海時代以降、帆船でアジアやアメリカに広く運ばれた可能性が高そうです。

当時のポルトガルは、人口も多くないのに急激に世界に勢力圏が広がってしまい、成人男性がどんどん世界に拡散して、慢性的に人手不足になっていたのだそうです(女性は海外に出ることを許されていなかった)。そのような海外ラッシュにともない、生活に必要なもののひとつとして楽器も大量に各地に運ばれたのではないかと考えられます。ジャカルタに運ばれた楽器として先に出てきた、ヴァイオリン、フルート、タンバリン、小型ギターは、どれも小型で、長期間の船旅に携行するのにふさわしいものが選ばれているように思います。ルネサンスギターやバロックギターを元にして、大航海に携行しやすく、移住に適したものとして、小型ギターが開発された可能性もありそうです。そのように考えれば、中南米各地やインドネシアに、小型ギターの痕跡が残っている理由もわかるように思うのです。

参考・インドネシア音楽の本 田中勝則著

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