あれこれいろいろ

意味のわからない歌詞のなりたち アズマリの秘密の言葉

パッキャマラドは、フランス語で、「一歩一歩だ、友よ」という意味だそうですが、世界の民謡にはどうにも意味のわからない歌詞や掛け声があることが珍しくありません。その成り立ちは、とても古い方言が残ったとか、単なる言葉遊びだったとか、いろいろ可能性はあるでしょうが、ある集団の隠された言葉だったという可能性もありそうだ、というのが今日のテーマです。

エチオピアには吟遊詩人アズマリという人々がいて、普段使用する言語(アムハラ語)のほかに、仲間内だけで通用する秘密の言語イエ・ザタ・ラングワ(ザタの言語)を隠し持っているのだそうです。

例えば、アズマリの夫婦が酒場に稼ぎに行って、妻が歌い夫が伴奏しながら掛け声や合いの手を入れるとします。そのとき、妻は客にわかるアムハラ語で、「花の都ゴンダールへようこそ、こんにちは兄弟、お元気でしたか」などと歌っている間、夫は秘密のザタの言語で、「この客は金を持ってないぞ」「隣の酒場をあたろうか」などと言い、妻もザタの言語で「もう少し粘りましょう。すぐにチップをくれるわ」と答えたりしていて、これが客には、演奏の合いの手か、聞き取りにくい歌詞の一部にしか聞こえていなかったりするのだそうです。

このザタの言語はどうやって作られるかというと、基本はアムハラ語で、単語をひっくり返したり(マタ→タマ)、単語の頭の発音を入れ替えたり(タマリ→ウォマリ)、言葉の一部を重複したり(アラケ→アルクルク)、音を付加したり(アンドゥ→アンドウカ)という単純な細工の組み合わせで、これで普通のエチオピア人にもチンプンカンプンな言葉になるのだとか。そう言えば、日本の芸能界でも、言葉をひっくり返すのが流行った時代がありました。日本の芸能界も、酒場の流しや門付け芸とか、古くからの芸能文化を色濃く残しているところがあるので、エチオピアと同じように隠語文化が生まれる古くからの必然性があったのかもしれません。

日本の芸能界のひっくり返し言葉で作られたおもしろいCМが昔ありましたね。↓

このCМをみると、歌の合いの手のようにこんな言葉を挿入されたら、もう何言ってるか全然わからなくなりそうです。

こういう隠語文化というものも、音楽や芸能の成り立ちを考えるヒントがありそうです。アズマリも日本の芸能も、歴史的に差別される立場に立たされたことが多く、自己防衛上仲間内だけの隠されたコミュニケーションを作る必要が高かったのかもしれません。

というわけで、世界各地に見られる全く意味不明の呪文のような合いの手は、何らかの必要に迫られて作られた秘密の言語の名残り、という可能性もありそうに思うのです。

参考・エチオピア高原の吟遊詩人 川瀬慈著 音楽之友社

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