あれこれいろいろ

平安貴族と笛 思いをはせるという心の動き

枕草子は横笛(竜笛)について、このように書いています。

「笛は、横笛、いみじうをかし。遠うより聞こゆるが、やうやう近うなりゆくも、をかし。近かりつるが、はるかになりて、いとほのかに聞こゆるも、いとをかし」

(訳・笛は、横笛、とても風情がある。遠くから聞こえるのが、だんだん近くなってゆくのも、風情がある。近かったのが遠くになって、とてもかすかに聞こえるのも、とても風情がある)

またこれも枕草子の一文。

「夜中ばかりに御笛の声の聞こえたる、またいとめでたし」

これは一条天皇が吹く笛の音が夜中の内裏に聞こえてきたという状況のようです。

次は更級日記の和歌。

「笛の音のただ秋風と聞ゆるになど荻の葉のそよと答へぬ」

これはどのような状況かというと、月のたいそう明るい夜中に簀子に出て座って姉と空を見ていると、隣の邸で人払いをする牛車が止まって、「荻の葉、荻の葉」と呼ばせるけれども返事をしないらしく、呼びあぐねて笛をとてもみごとに気持ちを込めて吹いてから行ってしまったのが聞こえた、そこで、笛の音がまるで秋風のように聞こえるのにどうして荻の葉はそよそよと風になびくように返事をしないのだろう、と歌った、という状況。

こんなのが古文に登場する笛の音の例なのですが、共通するのは、笛が離れたところから聞こえてきて、吹いている人や状況に思いをはせる、という心の動きが生まれているところです。

吹いている人が目の前にいない、誰が吹いているのかも定かではない、どんな状況でどんな気持ちで吹いているのかもわからない、そんな隔たりから生まれる空間に笛の音が響き、牛車の止まる音や人を呼ぶ声などが加わって、思いをはせるという心が動きだす。

そんなのが平安貴族にとっての笛の風情のひとつのようです。

参考・翻訳引用 ↓

http://hal.la.coocan.jp/b_class/omake_03.html

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