後白河法皇が今様の歌い方を梁塵秘抄の口伝十巻に書き記したわけですが、その多くは現代では失われてしまいました。いろんな歌詞に対応した歌い方を書かれ、歌ごとに多様なメロディと拍子があったと思われるのですが、現代ではそれを知ることができません。
枕草子には「歌は風俗。中にも杉立てる門。神楽歌もをかし。今様歌は、長うてくせついたり」という記載があります。「長うて」については、和歌に比べると歌詞が長いとか、歌い方が長く伸ばすなどの訳があります。「くせつく」については、高低の節があるとか、癖があるとか、複雑だなどの訳があります。結局全体の傾向としてもやはりよくわからないのです。
このようによくわからない中、現代では、雅楽の「平調越天樂」のメロディと拍子に乗せて今様を再現することが多いそうです。
雅楽の平調越天樂↓
平調越天樂をもとにして再現した今様の歌と舞↓
以前にも書きましたが、雅楽はここ千年の間に、十倍長くなった(十倍ゆっくりになった)という研究を、ローレンス・ピッケンという人が1960年代に発表しています。もしそうなら雅楽の越天樂自体も当時はずっと早かった可能性があります。
新猿楽記には、平安時代末期の様々な芸を見て熱狂的に興奮する京の町の人々が描かれていますが、今様は庶民感覚の最先端を反映した当時の流行歌、まさに当時の今ふう(今様)の芸であったことを考えると、庶民の情熱にこたえるような早いリズムだった可能性もありそうだと思います。また、今様の魅力はなんといっても歌詞の内容なので、歌詞がすぐに理解でき、すっと人々の口にのぼりやすい、たとえで言えばテレビコマーシャル音楽のような、わかりやすいメロディとリズムだったのではないか、とも思います。
ローレンス・ピッケンの説によるチューリップの歌の早さ比較動画はこちらです。
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