ジョージア(旧グルジア)の男声合唱曲の「Chakrulo(チャクルロ)」は、ボイジャー探査機のゴールデンレコードに刻まれて、銀河系を出て地球から245億キロの彼方の宇宙を飛んでいます(2024年時点)。
1977年に打ち上げらたれボイジャー探査機のゴールデンレコードには、地球の生命や文化の存在を伝える音・科学・画像・音楽・考え・感じ方などを表した情報が記録され、地球外知的生命体に発見解読されるのを待っているのです。このゴールデンレコードには、27曲の古今東西の音楽がのせられ、その中の一曲がジョージアのチャクルロというわけです。これをジョージア人は誇りとし、祝宴の席で、”銀河系を突破したチャクルロ!”と言って乾杯する姿も見られるのだとか。
では、そのチャクルロをどうぞ。
なるほど地球を代表するにふさわしい風格ある響き。
この曲が選ばれた経緯は、ジョージアン・ジャーナルの「The Untold Story of How “Chakrulo” Ended Up in Space」に、次のように紹介されています。
「当初ソ連(この当時のジョージアはソ連の一部)の高位政治家たちは、ロシアの人気曲『モスクワの夜』(Podmoskovniye Vechera)を強く推薦したが、曲の選定にあたっていたドルヤン夫人とその友人たちは、モスクワの夜が収録に値するとは考えなかった。 そこで彼らはアメリカの民俗学者、アラン・ローマックスに助言を求め、 彼は即座にグルジアの歌「チャクルロ」を聴かせたところ、強く感動したドルヤン夫人は、聴き終わるまでにはチャクルロの参加を決めていた」(ジョージアンジャーナルの記事より)
この経緯からすると、チャクルロの歌詞の内容をあまり調べないまま、採用を決めたのでしょうか。宇宙人に言葉の内容がわかるわけがないということで歌詞は気にしなくて良いようにも思われますが、それは地球人の発想で、宇宙人からすればテレパシー的にぽんと簡単にわかっちゃうかもしれません。「グルジア民謡概説」久岡加枝著に、チャクルロの歌詞の内容が紹介されていました。こんな歌詞です。
橋頭堡で契りを交わそう 我々は血を分けた兄弟になるのだ ムフランバトニを討つのだ まずは家の屋根を破壊しよう ムフランバトニの支配が原因で 我々は籠の中をパンを焼く粉で満たすこともできない 仔牛も育てられず 脱穀すらできない ヘヴレスティで鍛造された剣よ テラヴィでトゥシェティの奴がお前を研いだのだ エレクレ王はお前を祝福し 闘いのために十字を切った 私を支配する敵よ 私は泣かない 泣くのは女の習慣だ 私は不遇な目にこれまで幾度となく遭遇した しかし私はうめき声ひとつあげなかった 剣を一本おくれ さあ研ごう 銃を用意しよう お前が私を満たしてきたように 今度はお前を弾丸で満たすのだ
なんと反乱準備の歌でした。ムフランバトニとは16世紀から19世紀までグルジア東部を支配していたムフラニ公で、その支配に困窮した人々が武装蜂起を決意したというわけです。宇宙の知的生命体がこの歌詞を知ったら、支配・殺りく・迫害・困窮・暴力・抵抗・武器という地球文明の一面を知ることになります。地球文明の一端を伝えるという点では、なかなか本質をついた味のある選曲という見方もできるかも。
こうなると、ゴールデンレコードにのらなかった、ソ連高官推薦の「モスクワの夜」という曲の方はどんな曲だったのか気になってくるところです。モスクワの夜の動画と翻訳をどうぞ。
庭ではざわめきさえ聞こえない、
ここではすべてが朝まで凍りついている。
モスクワ近郊の夕暮れ。
川は動き、そして動かない、
すべてが月光の銀でできている。
歌が聞こえたり聞こえなかったり
この静かな夜に
なぜ君は不審な顔をする?
頭を低く下げて?
言うのは難しいし、言わないのも難しい。
心の中にあるものを
夜が明ける
だから、どうか優しくしてください。
なかなかこちらも味があります。この歌詞を解読した宇宙の知的生命体は、地球は案外良さそうな星で行ってみたいなあと思うでしょうか。
さて、どちらの選曲がよかったかは、何とも言えません。地球と人間の本質をどう見るのかという哲学次第ですが、宇宙人目線からすると、どの情報よりもチャクルロで地球の文明レベルがよくわかったと思う可能性はありそうです。