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演奏ホールの音響のはなし カーネギーホール改装事件

演奏ホールの音響が微妙なバランスの上に成り立っているというはなしです。

1891年に完成したニューヨークのカーネギーホールは、素晴らしい音響の名ホールとして数々の演奏を支えてきましたが、完成から約100年後の1986年、30週間演奏を停止して5000万ドルの大改装を行いました。そして改修後の開演のとき、多くの関係者が愕然とすることになりました。著しい音の劣化があり、音は奥行きがなくぼやけて感じられたのです。

ホール側はしばらくは音の劣化を否定しましたが、批判を受けて重い腰を上げ、原因調査に乗り出して高い周波数の音を吸収するパネルを設置するなどしましたが、根本的な解決には至りませんでした。

事態の改善は9年後の1995年に偶然訪れました。変形したステージを修復するために床板をはがしたところ、下からコンクリート層が出てきて、これをはがしてステージを修復すると、見事にホールの音響が回復したのです。

しかしこのコンクリート層は、1986年の大改装の前からすでに存在していたことが後に判明。コンクリートは音響劣化の原因ではなかったのです。結局、音響劣化の原因も不明、音響回復の原因も不明のまま、謎のバランスで音響が変動して、現在結果オーライになっているというわけです。

音響のバランスの繊細さは、楽器作りでもよく感じるところです。ソプラノサイズで素晴らしい音響を示した材もテナーサイズで作ると音がぼやけたり、ぼやけた音の楽器も裏板を違う材に張り替えたとたんに、俄然音に輝きが出てきたりします。

この材でこんな作り方をすればこんな音になるだろうという想定設計はもちろんあるのですが、最終的にどうなるかは出来上がってみなければわからない。最後のさじ加減は神のみぞ知るというところが楽器作りの難しさであり楽しさでもあります。出来上がってみて想定以上の音になるとこもある反面、大いにがっかりすることもありますが、がっかりしてもそこから次はこうしてみようという動きが出てきますから、結局それは楽器作りの楽しさなのでしょう。

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