作レレ

輸入材に日本の木の名前を付けちゃうの件

先日、「本榧(ほんがや)」の古材を買って来て切ってみたら、「本榧」ではなく「新榧(しんがや)」であることがわかり、ガッカリしました。本当は「本榧」でウクレレを作りたかったのです。

実は、ひと昔前まで、「榧」には、「本」も「新」もありませんでした。「榧」が碁盤や将棋盤を作る高級材として高価になるにつれ、外見が似て安価だった北米のスプルース(特にアラスカ方面のシトカスプルース)を輸入してきて、「新榧」と名付けて販売するようになり、そのため従来の榧を「本榧」と呼ぶようになったのです。「榧」と「スプルース」は別種の木ですが、碁盤にしてニスを塗ると似通った感じになって、区別が難しくなります。

また「桂(かつら)」も碁盤や将棋盤に利用される木ですが、こちらも同じように、外見が似ている別種の「アガチス」を東南アジアから安く輸入してきて、「新桂(しんかつら)」と呼ぶようになりました。そのほかアガチスには「南洋桂(なんようかつら)」という呼び方もあります。アガチスはニューギニアの呼び方ですが、同じ木をインドネシアではダマール、フィリピンではアルマシガ、マラヤではダマルミニャク、ニュージーランドではカウリと呼びます。さらに、アガチスは、建築材などとして「桧」の代わりにもなり、「南洋桧(なんようひのき)」という名でも呼ばれてもいます。アガチスは、桂になったり桧になったり、忙しいことです。また、アガチスとは別に「ラミン」という木を輸入してきて、これを「南洋桧」と呼んで桧の代替材にした例もあります。こんなに無秩序な名付けになると、桧と桂とアガチスとラミンが、一体何が同じで何が違うのか、どんどんわからなくなっていきます。

輸入材への無秩序な名前の付け方の例は、次のようにほかにもたくさんあります。

・アメリカからヒノキ科のねずこの仲間の木を輸入してきて、「米杉(べいすぎ)」と呼ぶ。

・アメリカから栂椹(とがさわら)の仲間の木を輸入してきて、「米松(べいまつ)」と呼ぶ。

・アメリカから桧の仲間の木を輸入してきて、「米ヒバ」と呼ぶ。

・中国からコウヨウザンという桧の仲間の木を輸入してきて、「中国杉」と呼ぶ。

・アフリカからセンダン科カヤ属の木を輸入してきて、アフリカンマホガニーと呼ぶ(本来のマホガニーはセンダン科マホガニー属)。

こんな感じで、日本の材木業界は、輸入材の元々の名前や植物学上の分類を尊重する気持ちはなかったようです。その原因は、「代替材」という発想から来ているのかもしれません。つまり、それまで使ってきた日本の木が本来の木で、外国から輸入した安い木が代替材だから、日本の本来の木の名前に引き寄せて呼び名を付けてしまえばいいというわけです。その際、呼び方の頭に、「新」とか「地名」を付けて区別すれば、嘘にはならないだろうという判断があったのでしょう。しかし、消費者は、その呼び名の分類の木なのだろうと考えて品質や値段を判断するわけですから、そこには売りやすいようにするための情報操作が入っていたと言わざるを得ないでしょう。

こういうやり方がいつから始まったのか正確なことはわかりませんが、多分、1964年に木材輸入が完全自由化されてから加速度的に一般化したのではないでしょうか。この年以後、外材が一気に日本に流れ込み、それまでの日本の木に変わって、外国産材をどんどん利用する流れが生まれたからです。

名前をでたらめに変えたように、輸入計画全体も無秩序無節操で、以後、日本は世界的な木材輸入大国として世界の原生林の破壊に深く関与していくことになりますし、同時に日本の林業の衰退を招き、国内山林は荒廃していくことになります。

なんだか「千と千尋の神隠し」の話を思い出します。名前を奪われて勝手な名を付けられた木たちと、名前を奪われて「千」となった「千尋」と、名前を奪われて「ハク」となった「ニギハヤミコハクヌシ」など、それぞれの捕らわれの運命が、どこか重なるところがあるように思えます。

 

 

 

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