先日、「本榧(ほんがや)」の古材を買って来て切ってみたら、「本榧」ではなく「新榧(しんがや)」であることがわかり、ちょっとガッカリ。私は「本榧」でウクレレを作りたかったのです。
実は、ひと昔前まで、「榧」には、「本」も「新」もありませんでした。「榧」が碁盤や将棋盤を作る高級材として高価になるにつれ、外見が似て安価だった北米のスプルース(特にアラスカ方面のシトカスプルース)を輸入してきて、「新榧」と名付けて販売するようになり、そのため従来の榧を「本榧」と呼ぶようになったのです。「榧」と「スプルース」は別種の木ですが、碁盤にしてニスを塗ると似通った感じになって、区別が難しくなります。
また「桂(かつら)」も碁盤や将棋盤に利用される木ですが、こちらも同じように、外見が似ている別種の「アガチス」を東南アジアから安く輸入してきて、「新桂(しんかつら)」と呼ぶようになりました。そのほかアガチスには「南洋桂(なんようかつら)」という呼び方もあります。さらに、アガチスは、建材などとして「桧」の代わりにもなっていて、「南洋桧(なんようひのき)」という名でも呼ばれてもいます。アガチスは、桂になったり桧になったり、なんとも忙しいことです。また、アガチスとは別に「ラミン」という木を輸入してきて、これも「南洋桧」と呼んで桧の代替材にしていたりもします。こんなに無秩序な名付けになると、桧と桂とアガチスとラミンが、一体何が同じで何が違うのか、ますますわからなくなっていきます。
輸入材への名前の付け方の例は、次のようにほかにもたくさんあります。
・アメリカからヒノキ科のウエスタンレッドシダーを輸入して、「米杉(べいすぎ)」と呼ぶ。
・アメリカからトガサワラ(栂椹)属のダグラスファーを輸入して、「米松(べいまつ)」と呼ぶ。
・アメリカからヒノキ科のイエローシダーを輸入して、「米ヒバ」と呼ぶ。
・中国からコウヨウザンという桧の仲間の木を輸入してきて、「中国杉」と呼ぶ。
・アフリカからセンダン科カヤ属の木を輸入してきて、アフリカンマホガニーと呼ぶ(本来のマホガニーは中南米のセンダン科マホガニー属の木)。
こんな感じで、日本の材木関連業界は、輸入材の元々の名前や植物学上の分類をさほど重視せず、簡単に日本の木の名前を当てはめている例がかなりあるのですが、その原因としては、「代替材」という発想があるように思えます。つまり、それまで使ってきた日本の木が本来の木で、外国から輸入した木はあくまでも代替材だから、その本来の木である日本の名前に引き寄せて呼び名を付けてしまえばいいというわけです。その際、名前の頭に、「新」とか「地名」を付けて区別すれば、嘘にはならないだろうという判断があったのかもしれませんが、消費者は、その呼び名の分類の木なのだろうと考えて品質や値段を判断するわけですから、その名付け方は少々安易に過ぎたのでは⁉という印象があります。
こういうやり方は、明治時代から徐々に始まったようですが、多分、1964年に木材輸入が完全自由化されてから加速度的に一般化したのではないでしょうか。この年以後、外材が一気に日本に流れ込み、それまでの日本の木に変わって、外材をどんどん利用する流れが生まれたからです。
名前を安易に付けてしまったように、輸入計画全体もその場しのぎだったため、以後、日本は世界的な木材輸入大国として世界の原生林の破壊に深く関与していくことになりますし、同時に日本の林業の衰退を招き、国内山林は荒廃気味になっていくことになります。
なんだかアニメの「千と千尋の神隠し」の話の中で、名前を奪われて「千」にさせられた「千尋」と、名前を奪われて「ハク」にさせられた「ニギハヤミコハクヌシ」が、本来の自分の名を忘れて、不思議な世界に囚われている話を思い出します。名前を奪われた木たちは、代替材というカオナシのような無表情で無機質な存在に近いようにも思われます。
