ウクレレ豆話

良い響板の木が育つ環境

前回の記事で、響板には年輪が均一緻密に詰まった柾目板が良い理由について書きましたが、そのような響板はどんなところで育つのでしょうか。

年輪が詰まっているということは、環境が厳しく成長スピードが非常に遅いということです。年輪が均一ということは、数百年間ずっと自然環境が厳しいままで安定しているということです。そのような場所はどんなところかというと、次のような環境になります。

・寒冷地 水平分布で言えば北国、垂直分布で言えば高地

・日当たりが悪い 山の北側 急峻な斜面 密度がある森林

・土壌が肥沃でない 岩場 氷食地形(氷河が堆積物を削り取ったあとに氷河が後退して残った貧栄養の土地) 堆積物の少ない薄い土壌

ストラディバリがスプルースを探したヴァル・ディ・フィエンメ渓谷は、アルプス山脈という寒冷な山岳地で、しかも彼は日照のよくない北側斜面で木を探したと言われています。

アコースティックギターの響板で代表的なシトカスプルースが育つ地域はアラスカ州などかなり寒冷な場所が含まれ、シトカスプルースは氷河後退後の氷食地形に最初に育つ先駆樹種(パイオニア樹脂)として土壌的にもかなり厳しい環境下で育ちます。こんな厳しい環境から年輪が均一緻密に詰まった材質が形成され、反応の良いクリアな響きが生まれてくるわけです。

スプルースに次いでギター材に使われるレッドシダーは、氷河後退後数百年以上の時間が立って土壌に有機物が蓄積されてから育つ極相樹種(パイオニア樹種でなくクライマックス樹種)です。土壌環境的にはスプルースよりもかなり豊かな環境です。レッドシダーは、一般にスプルースよりも柔らかい材質で楽器の音も柔らかい穏やかな音になりますが、これも少し恵まれた土壌環境を反映していると言えそうです。

近ごろ日本製のギターやウクレレ材として使われることがある屋久杉はどうでしょうか。屋久島は低地の亜熱帯から山頂部の亜寒帯まで広い気候を含みますが、その中で屋久杉が育つ中心は標高900mから1600mの冷温帯です。そして気候以上に特筆すべきは、土壌環境がよくないことです。元々貧栄養の花崗岩の土台を覆う薄い土壌、1か月に35日雨が降ると言われるほどの年間雨量、急峻な地形、これらの状況により土壌のミネラルや有機物が流失してしまいます。そのため、屋久杉は極限まで成長を遅くして年輪を密にし組織を強化します。さらに油分(樹脂、精油分)を大量に分泌して蓄積することで防腐・抗菌・防虫・樹脂による傷口封鎖による自己修復効果等を高めます。私の体験上も屋久杉はなかなか良い音響が得られるのですが、これもこのような自然環境下から生まれる音と言えるでしょう。

楽器材は厳しい環境で育たなくてはならないという決めつけは不要と思うのですが、厳しい環境だからこそ形成される音の傾向性はあると言えそうです。

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