あれこれいろいろ

エストニアのカンネルを弾く人と古代日本の和琴を弾く人 言葉と物語の共通性

エストニアのタルバストゥの民族衣装を着てカンネル(kannel)を弾く人 と 古墳から出土した古代日本の和琴(わごん)を弾く人(古墳時代は5世紀から6世紀頃)

うーむ、似てますねえ。

楽器そのものは、ほとんど同じ構造、同じ演奏形態で、同種の弦を張って調弦も一緒にすれば、ほぼ同じ楽器と言ってもよいくらいです。

そしてこの衣装も含めて演奏の雰囲気の似ていることは、果たして偶然なのか、何か必然的な理由があるのか…偶然と考えるのが常識的かもしれませんが、案外そうでもないかも、というのが今日のお話。

フィンランド語、エストニア語、ハンガリー語はウラル語族です。すぐお隣のスゥエーデンやノルウェーがインド・ヨーロッパ語族なのと異なって、ヨーロッパ系の言葉ではないわけです。そしてなんと、日本語の語彙中には、ウラル語族と共通の語彙が多く発見されるのだとか。漢語が日本列島に流入する前の日本語(やまと言葉)の語彙は次の図のような構成なのだそうです。

参考・金平譲司氏 日本語の起源についての研究

そして次に、伝承されている物語の共通性。E・S・ハートランド著「おとぎの話の科学」(1891年)に記載されているエストニアの民話をどうぞご一読ください。(カレワラ神話と日本神話 小泉保著 より)

水の母の娘、人魚は農夫の末子で粗野な青年と恋に落ち、彼を夫として水底の宮殿に連れて行って同棲した。人魚は、夫の前に現れるとき女の姿をしていたが、木曜日だけは一人で過ごした。彼女はこの日だけは邪魔しないように夫に頼み、彼と楽しんでいるとき、人魚と呼んではいけないと命じた。しかし、一年以上たつと、夫も怪しみ、嫉妬するようになり、妻の部屋のカーテンのすき間から覗いてみたいという誘惑に負けてしまった。見ると妻は半分人間、半分魚の姿で泳いでいた。

男は幸福の条件を破ったので、妻と一緒に暮らすことができなくなった。やがて彼は人魚と最初に出会った浜辺に打ち上げられていた。起き上がって村に戻り両親を訪ねたが、もう30年も前に亡くなっていたし、兄たちも死んでいた。彼が二、三日海岸を歩き回っていると、情け深い人が彼にパンを恵んでくれた。思い切ってその話を友人にすると、その晩男は姿を消してしまい、二、三日後に彼の死体が岸辺に打ち上げられていた。

日本人としてはこのエストニアの民話に既視感を感じるのではないでしょうか。

既視感のひとつは浦島太郎の話との類似性があります。水底の宮殿での幸せな暮らし、そこから戻ったときの不可思議な時間の経過、そして知人が誰もいなくなった世界での悲しい終焉。また見てはならないのにカーテンを開けて見るというところと、開けてはならない箱を開けるというところにも、類似性があるでしょう。

既視感のふたつ目は古事記の山幸彦と豊玉姫の話との類似性。釣り針を探しに海底の国に来た山幸彦は豊玉姫と出会い結婚し、陸で出産するときに、姫は姿を見ないでと頼みます。しかし山幸彦は我慢できずにみてしまい、姫がワニになってはい回っているのを見て驚きます。そして見られたことを恥じた姫は子供を残して海底に去ってしまいます。ここでも海底の国が出てきて、見るなという禁忌、それを破って人間ではない姿を見てしまうこと、そして訪れる別れという流れが共通します。

既視感の三つ目は、鶴女房(蛇女房、魚女房、狐女房など類似の話は多数)に代表される異属婚姻の民話。異なる種族の女性との婚姻、見るなという禁忌に違反する夫、妻の本姓を見てしまって訪れる別れと失われた幸福な生活。

既視感の四つ目は、黄泉の国に来たイザナギが、決して見るなと言われたのに見てしまい、腐乱するイザナミを見たところから、イザナミとの永遠の訣別につながります。

これらの類似する要素を偶然と言い切る方が論理の飛躍があるように思います。むしろ日本の言語・伝説とウラル語族の言語・伝説はどこかで結びついていると考える方が自然で、問題はその文化的な繋がりの深度と広がりをどの程度のものと見積もるのか、というところにあるように思われます。そういう全体像の中で楽器のつながりも再検討するのがよいように思います。

想像以上に広い視野と長い時間軸の中で、日本と世界のつながりを捉え直す必要があるのではないでしょうか。

(また、イザナギとイザナミの話はギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケの話と酷似し、そこでは竪琴が重要なアイテムとして出てくることや、古墳の埴輪の人物像とユダヤ人の習俗が類似していてユダヤ人が強制移住させられた古代アッシリアにはカーヌーンという類似した卓上琴があること、以前にも少し書きましたが中国の大樹伝説と和琴との関わりもあることなど、日本の和琴を分析しようとすると、世界規模の影響が多方面から交錯して積層している可能性も見えてきます)

 

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