高齢者の音声聞き取り能力はだんだん低下していきます。そのポイントは次の三点。
ポイント1…高周波域、特に4000Hz(4kHz)以上の音声の聞き取り能力が顕著に低下してくる。声の主要成分は3000Hz以下であるが、子音は周波数が高く、特にs、k、f、tは周波数が高いので、それを含む言葉の聞き取りが難しくなる。
ポイント2…騒音(環境音)の影響を受けやすくなってきて、騒音下での聞き取りが難しくなる。
ポイント3…時間的な処理能力の低下や短期記憶の容量低下などにより、会話の早いテンポについていけなくなる。
これらのポイントに即して、各メディアで高齢者に対する音声提示方法がいろいろ模索されています。個人の会話レベルで言えば、skftの子音を含む言葉をなるべく避けて話す、母音をはっきり発音するようにする、ゆっくりはっきり話すよう心掛ける、騒音の少ない環境下で話すということで、ずいぶんと聞き取りやすくなるそうです。
老人性難聴の原因は、有毛細胞の減少、特に高音域を拾う有毛細胞の減少であるため、治療法は現代では特になく、なるべく進行しないよう、適度な運動、規則正しい睡眠、長時間の騒音被爆を避ける、血液循環を改善するビタミンEや神経の維持に必要なビタミンB12を含んだ食事などに配慮するというのが、医療面からのアドバイスです。そして、適切な時期に補聴器を使用することで、生活の質、社会性、認知能力等の低下に結び付かないようにしていくことが最も重要になります。
最後に老人性難聴と音楽の関係ですが、老人性難聴で聴く音楽は、高周波数である音の刺激度が減少し、低周波音や中周波音が主に聞こえるようになる結果、音が柔らかくきこえるようになります。一般に補聴器は、会話優先設計で、小さな音の増幅、高音域を聞こえる音域まで下げる、周囲の雑音を抑制するという設計になったているため、音楽に含まれる多くの音が雑音としてカットされてしまい、音の大小や音域のバランスが変えられるため、音楽の本来の聞こえ方が再現されません。そのため補聴器には、音楽を楽しみたい人のために、音楽モードへの切り替え機能が用意されています。
参考・「高齢者の音声の聞き取りについて」水浪田鶴 産業技術総合研究所 ほか