雅楽は奈良時代ころに中国や朝鮮半島から日本に流入してきて、そこに日本人の作曲も加わり、日本の儀式音楽や宮廷音楽として定着しました。雅楽は平安時代以来大きな変化なく継承されているという理解がある一方、雅楽は著しくゆっくりになって別物になっているという説もあります。
この速度変化説の最初の提唱者はイギリスの音楽学者ローレンス・ピッケン(Laurence Picken 1909~2007)で、現在の雅楽の進行のなかに古い大陸的・歌謡的なメロディーが潜んでいることを発見し、それを分析した結果、雅楽は千年以上の歳月をかけて曲によっては10数倍も “まのび”していると指摘しました。
実際、雅楽が現在よりずっと早かったと考えれば、当時の文学の様々な記述とも整合してくるのだそうです。
このローレンス・ピッケンの説は1960年代に提唱されましたが、最近さらに研究が深められ、平安時代頃の雅楽の再現が試みられていて、動画も公開されいます。次はその一例です。まずは、現代スタイルの演奏(想夫恋・5分強で演奏)から。↓
次は平安時代スタイル(想夫恋・同じ曲を20秒で演奏)↓
こんなにちがうのですね。現代バージョンではもはやメロディを理解することは困難です。楽器の演奏方法も著しく形式化しています。
さらに舞が加わると、必然的に舞も変化します。その動画がこちらです。
↓ 現代の万歳楽の舞
↓ 平安時代の速度で再現を試みた万歳楽の舞
見ていてウキウキ楽しくなるのは平安時代ですね。リズムにのりやすく、手拍子で合わせたくなります。現代スタイルはおめでたい雰囲気はありますが、ありがたく拝聴拝見する感じで一緒にのっていく感じではありません。手拍子で合わせるのも難しいです。速度が変わると、観客の視聴態度も根本的に変化を迫られるようです。
これらの再現動画の解説は詳しくはこちらをご覧ください。どうのような資料から再現されたのかたくさんの論考(田鍬智志氏)があり興味深いです。↓
前回、今様の歌い方について、雅楽の平調越天樂のメロディとリズムに乗せて再現して歌うことが現代では多いらしいと書きましたが、今様のスピード感も再考の余地はありそうです。さらに日本の伝統芸能全般についても、現代のスピード感と異なるあり方を考える余地があるのかもしれません。