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throat singing(喉の歌) イヌイットのカタジャクとアイヌのレクッカラ

カナダ最北端に住むイヌイットには、throat singing(喉の歌)という、独特の発声法による歌の文化があります。カタジャクなど、地域によっていくつかの名称があるそうです。

こんな歌い方です。↓

もともとは、イヌイットの男性たちが狩猟旅行に行っている間の女性たちの娯楽(ゲーム)で、女性ふたりが向き合って吸気や呼気による有声音と無声音を出し合い、最初に息切れしたり、もう一人の歌手のペースを維持できなくなったりすると、笑い出すか、単に止まってゲームから脱落します。一般的に1ゲームは1分から3分続き、最も多くの人を打ち負かした人が勝者となります。かつては、狩人の帰還を早めたり、動物を引き寄せたり、自然要素に影響を与えたりするために行われたこともあったようです。

かつては、二人の女性の唇がほとんど触れ合い、一人の歌手がもう一人の女性の口腔を共鳴器として使う歌い方をしていたが、現在ではその歌い方は一般的ではなくなっています。

実はこのイヌイットのカタジャックと非常によく似た歌が、アイヌにもあります。アイヌのレクッカラ(喉遊び歌)です。こちらをご覧ください。

こちらは、相手の口腔を共鳴器として使うと言う、イヌイットではもう行われなくなった方法が残っています。女性が向かい合って喉からの発声で遊び合う様子は、イヌイットとほとんど同じで、起源は共通である可能性が高そうです。

レクッカラの論文がこちらから読めます。↓

file:///C:/Users/user/Downloads/vol_4_2.pdf

アイヌは樺太から渡ってきた民族でユーラシア大陸に起源があると考えられます。他方イヌイットの起源については、約3万 – 1万3000年前のウルム氷期の最寒期とされる頃、ベーリング海峡地域は陸地化しており、ユーラシア大陸のモンゴロイドが、このベーリング地峡を渡ってアメリカ大陸に進出したと言われています。

この喉の歌はそんな大陸が陸続きだったころから続く文化なのでしょうか。あるいは、陸続きでなくなった後に、狩猟のためにカヌーで大陸間の往来があり、伝わった文化なのでしょうか。しかし、狩猟でカヌーで移動するのは男性たちだったでしょうから、女性の間だけに伝わっているこの歌は、やはり陸続きであったころに共通の起源があると考える方が自然なのかもしれません。また、大陸が離れた後にも、カヌーによる移住があった可能性も考えられます。いずれにしても世界の四大文明よりも数千年昔にさかのぼる壮大な話です。

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