ウクレレの魅力

80歳になってもはじめられる楽器 ウクレレ 義父母の場合

先日、義父母が東京から福岡の家に来て十日ほど滞在しました。二人とも80歳を超えています。義父はもうすぐ90歳。東京から福岡に来る旅行ができるかどうか、体調と相談しながら、迷った末に決断してやって来たようです。

福岡に来て何日目かに、まず義父が、私が作ったウクレレを、暇つぶしにポロリンと弾いてみました。私がCのコードを教えると、Cはすぐにできるようになりました。何か簡単に弾ける曲はないの?というので、CとGとFの押さえ方を教えて、「ふるさと」の曲を紙に書いてあげました。義父は、ゆっくりゆっくり、ふるさとの歌をくちずさみながら、つかえつかえポロンポロンとやっていました。横で見ていた義母が、「そこはそうじゃくて、こう押さえるんでょう。ほら、中指はこっちだってば」などと口をはさみはじめ、義父の指を修正しようとしていました。義父は「うるさいな、今ちがうのをやろうとしてるんだから」などと反論したりしていました。義母も弾けるようにと、もう一本ウクレレをもってくると、義母も義父の横でポロンポロンとやり始めました。義母は、「私はやる気はないんだけどね」と言いながらも、義父にお手本を示すつもりで、「ほら、Fはこう押さえるのよ」などと言いつつ、ボロンポロンとやり始めました。二人で随分長く熱心にやっているので、私は、「あまり急にやって指を痛めたりしなかでくださいよ。休み休みがいいですよ」と言いましたが、どうやら指も手もさほど痛くはならないようでした。このようにして、義父母は、福岡に滞在中に、時々ウクレレを手にして時間をつぶすようになりました。そして東京に帰るときの荷物には、ウクレレが一本加わることになりました。

私はウクレレを義父母に勧めるつもりは全くなかったので、こうなったのはちょっと驚きでした。90に近くなって新たに楽器を始めるとは私も思っていなかったのです。多分ご本人たちもそうだったでしょう。ところが、ただ手慰みにぽろんとやってみたら、案外できた。長くやってても体にもそんなにきつくなかった。少しずつ上手になる感覚をひさしぶりに味わうことができた。夫婦であれこれ言いながら一緒に楽しむこともできた。東京に帰ったら、東京にいる小さな孫たちにも聞かせられるかもしれない。もしかしたら孫たちもウクレレを始めて一緒に楽しめるかもしれない。

こんなふうに、義父母の中に、これならできそうだという実感があり、楽しい夢が広がったのだと思います。私がウクレレを始めませんかなどと最初から勧めていたら、きっと「この年でもう新しいことはむりだから…」ということになっていたのだろうと思いますが、とても自然な流れでウクレレと義父母が互いに誘い誘われるようにして始まったので、80代後半でもウクレレを始めることができたのでした。

ウクレレはすごいですね。80歳から90歳で始められる楽器なんてほかに思いつきません。この小さなボディ、音の適度な小ささ、テンションの弱さ…これらがウクレレの持つ大きなパワーの源泉だと思います。どんな人でも誘える力があります。楽器というのは、楽しいうつわと書きますね。ウクレレは、多くの人を低い敷居で楽しい世界にいざなうことができるとても大きなうつわです。