あれこれいろいろ

中世ヨーロッパの普通の人々の音楽浸透度

現代人は様々なメディアを通じて音楽に親しみ、楽器演奏を学ぶ機会もたくさんあります。では、現代のようなメディアがなかった昔の人たちは、どのくらい歌や楽器に親しんでいたのでしょうか。

14世紀に書かれたイギリスのカンタベリ物語には、カンタベリ大聖堂に巡礼に行くためにたまたま合流した30人の人たちのことが紹介され、その中の幾人かは音楽に関わる(あるいは関わらない)人として紹介されています。こんなふうに。↓

・騎士見習いの青年…いつも歌を歌ったり横笛を吹いたりしていて、作詞、作曲も、馬上槍試合も舞踏もよくこなす

・騎士の従者…緑色の肩帯に角笛をつるしている

・女子修道院長…定時課のお祈りの歌を上手に鼻にかかった声で上品に詠唱する

・托鉢修道士…いいのどをしていて、フィドルを弾いて歌ったりするのがうまい。俗語の弾き語りは、必ず賞品をさらうほどうまく、ハープを弾きながら歌ったときなど、霜の降る夜にきらめく星のように目がきらきら光る。

・オックスフォードの学者…世渡りが上手ではなく、豪華な職服、フィドルや賑やかなプサルテリウムのような弦楽器よりは、アリストテレスとその哲学書20巻を枕元に並べて置きたがる。(裏をかえせば、世渡り上手な学者などは、豪華な職服で身を飾り、フィドルやプサルテリウムなどの弦楽器を身辺に起きたがったということだろう)

・粉屋…騒がしいおしゃべり好きで、罪深い話か猥談ばかりだが、バグパイプを上手に吹き鳴らす。その音に率いられ一行はロンドンの町を出た。

・免罪符売り…甲高い声を出して「こちらにおいで、いとしいひとよ、おれのところへ」と、トランペットの倍もある並外れた大音声で歌う。教会のミサ聖祭には奉献唱を一番上手に詠唱して、その後の自分の説教のときにたっぷり銀貨をいただこうとする。

・教会裁判所召喚吏…免罪符売りが大音声で歌うと、太い低音で和音を添えて歌った。

と、こんな感じで30人中8人について音楽や楽器に関係するエピソードを、その人を特徴付けることのひとつとして書いています。音楽について特にふれられていない他の人たちの中にも、楽器を演奏したり歌ったりする人はきっといることでしょう。

こうして見ると、中世の人たちは、現代人に劣らず音楽とかかわって暮らしていたようです。音楽を聞くだけでなく、自分で演奏したり歌い出すことに躊躇しない様子も見えます。音楽が自分の職業、信仰、お金儲けと関わりながら、コミュニケーション手段として日常的に機能している面もありそうです。メディアがない時代だからこそ、音楽は自分が歌い奏でるものとして、より一層身近だったのかもしれません。

 

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