ルネサンスギター

現存するビウエラ(vihuela)

16世紀に盛んだったギターの形の楽器には、4コースのルネサンスギターと、6コース(5コースや4コースもあったという)のビウエラが併存していました。どちらもイベリア半島で黄金期を迎えた楽器で、起源や用途などの両者の関係をどう見るかは悩ましいところです。どちらも後のイベリア半島や中南米の楽器に大きな影響を与える存在であることは間違いありません。ルネサンスギターの展開を見ていくうえで、ビウエラの動向も重なってくることが多いので、自然にビウエラも視野に入ってくるのです。

当時のルネサンスギターで現存しているものはないのに対し、ビウエラには次の3つがあります。

1 ビウエラ・マリアニータ(La marianita) エクアドルのキトのイエズス会教会 ロレートの聖母の祭壇に聖遺物としてまつられていたもの

製作は1600年代最初の数十年の間にキト周辺で作られたのではないかと言われている。当時の所有者は、マリアーナ・デ・ヘススで、1950年に聖人の列に加えられた。マリアーナは、毎夜ビウエラを弾きながら、讃美歌、伝承曲などを歌い、礼拝しており、1645年に亡くなるまで演奏していたという証言がある。ペグ穴は12あるが、ブリッジの穴を見ると、1コースを単弦にして、全11弦で使用していた。弦長は727ミリと非常に大きい。

2 ビウエラ・グアダルペ(La guadalupe) フランス ジャクマール・アンドレ美術館蔵

非常に大きく実際の演奏用ではなくビウエラ製作家の試験提出用作品と推測されている。当時の試験技術項目に対応する作品は一般的なビウエラでは不十分であったという。弦長は798ミリもある。スペイン製とする説明も見られれば、16世紀の終わりにポルトガルのベルキオールディアスによってリスボンで製造された可能性が最も高いとの説明も見られる。

3 ビウエラ・シャンブール(La chambure) パリの楽器博物館蔵 16世紀ころ

これは弦長645ミリと3つの中では一番小さいが、現代のクラシックギターの弦長とほぼ同じで、これも決して小さくない。3種のビウエラの大きさを比較すると、次のとおり。ビウエラはルネサンスギターに比べると、コースが6コースと多いだけでなく、全体が非常に大きいことが特徴で、表板の板厚も非常に厚い傾向がある。

冒頭の絵は、16世紀スペイン、ビウエラを弾く天使