1911年(明治44年)から1914年(大正3年)にかけて整備された尋常小学唱歌には、当時の政府方針が明確に示されていることがあり、「歌う政治宣言」のような趣きがあります。
明治憲法には領土と国民の要件を直接に定める規定はありませんが、文部省唱歌で、領土と国民とその財産について次のように歌います。
これらの歌には、本土68国、北海道、樺太、千島、沖縄、朝鮮、台湾、澎湖島などが日本の領土の範囲であること、その住民六千万が同胞(天皇の臣民)であること、そしてその領土の富や資源はすべて国産、つまり日本のものであることが、子供の歌の装いを借りて歌われています。
尋常小学唱歌ができる前の暫定的な唱歌集「尋常小学読本唱歌」の緒言には、「國産の歌は…(中略)…児童の記誦を助けんがために特に作曲せり」と書いてあり、これを子供たちに暗記させて領土意識を定着させる方針が示されています。「同胞すべて六千万」の歌が、「國産の歌」とメロディが奇妙なほどに同じであることも、両曲がひとつの政治方針であることをうかがわせます。
そしてもうひとつ、第一学年で教えられる桃太郎の歌には、悪い鬼を退治して領土を分取り資源を持ち帰って万歳と叫ぶ様子が歌われていますが、日本がその後、米英を鬼畜と位置付け、アジア各地に侵攻して天然資源を確保し、占領完了時に皆で万歳と叫ぶのを習慣としたことも、偶然の一致ではないように思われます。