あれこれいろいろ

貴船社の道順の歌 梁塵秘抄から

梁塵秘抄にはこんな歌もあります。

「いづれか貴船へ参る道 賀茂川箕里みどろ池 みどろ坂 畑井田 篠坂やいちにの橋 山川さらさら岩枕」

これは貴船社の道順の地名を並べた歌。ただそれだけ。

もし自分が貴船社のPR担当だったとしたら、こんな歌を作って遊女たちに歌ってもらえば、結構効果のある広告になったのではないかと思います。目印になる地名が並んでいれば、場所も行き方も何となく想像がつくし、いつの間にか耳に付いた歌を口ずさんでいるうちに貴船社の存在がしっかり頭に刷り込まれます。地名が並んでいるだけでも、あちこちゆっくり見物しながら観光がてら行ってみようかな、なんて気分がある朝ふと湧いて来たりもするでしょう。

この歌を広告に見立てるのは私の想像に過ぎませんが、遊女たちにお金を渡してこんな歌を街角で口ずさんでもらえたら、あるいは人気の白拍子に祭礼でこんな歌を歌いながら舞ってもらえたら、画期的な広告になったのではないかと思います。もしそうならこの歌は記録に残った歴史上最初の広告歌謡であったかも。

世の中は古代から中世への時代的転換点です。民衆は貧しいながらも活力を高め、武士や僧侶の集団が大きな力をためていた時代。宣伝広告という表現が生まれてくる舞台は用意されているように思います。