あれこれいろいろ

尋常小学唱歌 9 日本の暮らしと風景編 「戦争と平和」

ここまで、国家目的が感じられる尋常小学唱歌のことを書いてきましたが、もう一方の側に、日本の風景や暮らしをテーマとする尋常小学唱歌が沢山あり、それが尋常小学唱歌の今も変わらぬ魅力になっています。次のようなものがあります。

第一学年
鳩、おきやがりこぼし、人形、ひよこ、かたつむり、夕立、朝顔、池の鯉、烏、菊の花、月、木の葉、兎、紙鳶の歌、犬

第二学年
桜、雲雀、小馬、田植、雨、蝉、蛙と蜘蛛、案山子、富士山、紅葉、時計の歌、雪、梅に鴬、母の心

第三学年
春が来た、茶摘、青葉、汽車、虹、虫のこゑ、村祭、雁、取入れ、冬の夜、港

第四学年
春の小川、ゐなかの四季、蚕、藤の花、雲、漁船、たけがり、霜、村の鍛冶屋、雪合戦、近江八景

第五学年
舞へや歌へや、鯉のぼり、海、納涼、鳥と花、日光山、冬景色、朝の歌

第六学年
朧月夜、故郷、蓮池、燈台、秋、四季の雨、鎌倉、新年、夜の梅

現在も歌い継がれている曲がいくつも見つかります。聴いたことがない歌でも聞いてみればどこか懐かしく感じられ、日本人の原風景を思わせます。

これらを聞いていると、くつろいだ平和な気分になりますね。尋常小学唱歌の大きな特徴は、前回まで見てきた国家目的(その多くは戦争に結び付く)に国民を誘導する唱歌群と、日本の平和な風景の唱歌群の二本立てになっているところで、尋常小学唱歌全体を120楽章からなるひとつの交響詩に見立てるならば、そのタイトルは「戦争と平和」がぴったりかもしれません。戦争と平和のふたつを、明治政府は、「公」と「私」、「ハード」と「ソフト」のような車の両輪にして、植民地主義が吹き荒れていた当時の国際世界を乗り切って行こうとしたのでしょうか。

尋常小学唱歌全120曲には、このような考え抜かれた方針が埋め込まれているように思えるのですが、平和に戦争が内在する方針でもあるため、尋常小学唱歌が国民に浸透するにつれ、日本はやがて戦争に突き進むしかない構造になっているように思えます。