楽器材にする木材は、通常、含水率6~10%くらいまで乾燥させるわけですが、木材の水分は、細胞壁内にある結合水と、細胞内腔にある自由水に分かれます。
含水率150%にも及ぶ生木の状態(飽水状態)から、伐採した木材を自然乾燥させると、まず自由水が蒸発して消失し含水率は28%になります。この状態を「繊維飽和点」といい、ここまでは材木の性質自体はあまり変化しません。
自由水がなくなると次に結合水が乾燥し、それとともに木材の性質が変化し始めます。木材が収縮を開始し、乾燥すればするほどたわみにくくなり、強度が増し、電気抵抗が増えて電気を通しにくくなります。
結合水の乾燥が進むと周囲の湿度とバランスが取れて平衡含水率に到達し乾燥が止まります(気乾状態)。この気乾状態に至ると、材木は空気が乾燥すると水分を放出し、湿ってくると吸収するという、天然のエアコンとも言うべき木材の調湿機能を発揮します。
平衡含水率は、地域・場所・季節等によって変動し、日本における平衡含水率は一般に屋外で15%、屋内は12%と言われ、エアコンがきいた部屋では10%を切ることもあります。
また地域によって年間の温度と湿度が異なるため、土地によっても差が生じ、欧米のように湿度が低い地域の平衡含水率は屋外でも12%程度です。
自然乾燥によって平衡含水率まで材木は乾燥しますが、楽器材のように6~10%まで乾燥させるには、特に日本のように平衡含水率15%にも及ぶ湿潤な地域では、人工乾燥の工程を入れて強制的に含水率を下げることが必要ということになります。人工乾燥によって細胞内壁の結合水もすべて失われた状態を全乾状態と言います。
人工乾燥技術が普及していなかってた時代には、楽器材を6~10%付近まで乾燥させることは困難だったわけですが、歴史的にヨーロッパで木材を使った楽器が多数生まれているのは、大陸は全体に空気が乾燥しているため、元々の平衡含水率が低く、自然乾燥でも含水率10%付近まで到達することが可能であったのに対し、日本のように湿潤な地域ではどうしても乾燥しにくく、そこから板張りの楽器よりも革張り(三味線、鼓)や笛などの楽器が多くなるという傾向になったのかもしれません。
人工乾燥によって一旦含水率を6~10%付近まで乾燥させても、自然環境の中に置いておけば、木材の調湿作用により含水率は周囲の湿度に応じて変動するわけですが、それでも自然乾燥だけのときよりも、含水率は低い状態が維持されるという性質があり、一旦大きく乾燥させる意味があるのだそうです。