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パロサントの重さは水とほぼ同じ 気乾比重 そしてウスレレの魅力

木を性質を表現する基準のひとつとして、気乾比重というものがあります。木の重さを比較するもので、気乾比重の数値が1の木であれば、同じ体積の水と同じ重さの木ということになります。気乾比重が1より小さい数値ならば水に浮くし、1より大きい数値ならば水に沈むということになります。水より重いか軽いかということ自体が重要なわけではなく、水という重さの安定したものを基準にすることによって、いろんな木の重さを比較することができるようになるわけです。

ちなみに、世界でもっとも重い木はリグナムバイタという木で、木乾比重は1.23です。逆に、世界でもっとも軽い木はバルサで0.16。日本だと桐のタンスも軽いですが、桐は0.24です。

ギターやウクレレで一般に使われる木を見てみましょう。軽い方から並べてみると、

スプルースは0.46、マホガニーは0.66、コアは0.67、ローズウッドは0.80、パープルハートは0.88、紫檀0.95、黒檀1.16です。トップに使用されるのは、スプルースからコアあたりまでですね。あとは、バック材や指板材になります。

重さのばらつきがとても広いですが、軽い方は木の隙間が多くてスカスカのやわらか構造、重い方は木の隙間が少なくてぎゅっと詰まったかたい構造です。ですから、気乾比重は、木の重さと同時に木の硬さを比較する基準でもあります。

では次に、一十舎で多用する木材を見てみますと、私がもっともよく愛用しているパロサントの気乾比重は0.99~1.10で、水とほぼ同じ重さです。水に浮くか沈むかは微妙なところです。かなり重い木ですね。

さらに私がよく使う木のもうひとつである屋久杉はと言いますと、気乾比重は0.38で、これは逆にすごく軽い方に属します。水に浮きまくりです。

こうやって数値を比較して見えてくるのは、一般にギターウクレレのトップに使用される木材の気乾比重は0.45以上0.7未満あたりにあるようです。トップというのは、弦振動を最初に受け取って振動する役割の、いわば太鼓の皮みたいな部位ですから、適度の張りのある硬さとよく揺れる柔軟性の両方が必要なわけですが、それが0.45から0.7あたりに匹敵するのかもしれません。

ところが、一十舎はというと、屋久杉は0.38でとても軽いし、パロサントは1.0であまりにも重いものを主力として使っているわけで、非常に稀なウクレレ工房であることがわかります。ふつうこれは不適切のレッテルを貼られてもしかたないはずなのですが、実際の作品はかなりいい音が出ていると思います。お客様の中には、これまで聞いたことがないハープのような音がするとか、今まで持った数あるウクレレの中で一番とおっしゃってくださる方もいます。それはどういうことなのでしょう。もしかしたら一十舎がボディ厚を薄くしてウスレレに特化していることと関係があるのかもしれません。ウスレレ特有の音の共鳴システムでは、利用できる木の範囲が広くなるのでしょうか。一十舎のウスレレでは、利用できる木の範囲が広くなって、その結果、個性豊かな音世界が広がりはじめているような気がしており、今後もその点を検証していきたいと思っています。ウスレレというもののポテンシャルの高さ、大きな可能性のひとつかもしれません。