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中世放浪楽師のネガティブイメージ(固定観念・レッテル)

中世のヨーロッパには放浪楽師がたくさんいて、祭りや祝い事などに欠かせない存在だったのに、同時に常に差別視がつきまとい、様々なネガティブな固定観念・レッテルが貼り付けられていました。そのネガティブな内容としては次のようなものがありました。参考文献は「中世ヨーロッパ放浪芸人の文化史 マルギット・バッハフィッシャー著」、「西洋中世美術にみる天国と地獄の《音楽》鈴木桂子著」、「中世ドイツの放浪芸人⑴ 浜本隆志著」ほか。

・信用できないやつら どこの町にも定住せず職業組合にも所属しない=社会的に信用できない

・恥知らずな職業 普通の市民が慎ましく教会や都市の秩序におさまって生きているのに、そこから逃がれて、あちこちでうまく立ち回って利益を得ている

・報酬目当て、金銭欲まみれ

・死者に近い 世界の境界をさまよい影の世界からやってきて、影の世界に人を連れ去る

・汚れた口 観客の受け狙いで、誰かに対する勝手な批評を繰り返し、嘲りと侮蔑をまき散らす

・卑怯で日和見でおべっか使い 依頼主に追従して、いつも大げさに褒めたたえる

・怠け者のろくでなし いつも酒場や売春宿など娯楽の場面にうろついて寄生している

・賭博癖と飲酒癖と売春に耽溺している遊び人

・軽率でその日暮らし、借金をつくり、無責任

・その日の報酬のためなら何でも引き受け、どんな犯罪でもやってるにちがいない

・能弁で立ち回りがうまく、態度を何度も変えて矛盾しても平気

・浪費癖と贅沢三昧 収入は軽はずみに全部使い果たす

・飲み代や賭博のために借金をして、商売道具の楽器を借金のかたにしたりもするだらしなさ

・放浪の女性芸人は娼婦にちがいない

・女性芸人は官能的に誘惑してくる罪深い存在だ

・男性芸人の妻や娘は売春したり売春をあっせんしたりするから、芸人一家は全員罪深い

・女性芸人の魔法、占い、加持祈祷、肉感的な踊りで人を誘惑する能力などは、全部悪魔から直接に手に入れたもの。女性芸人は悪魔の被造物。そして女性芸人は、誘惑に負けた男の魂を悪魔に引き渡し、男は破滅して地獄の罪に転落するから、警戒が必要だ。女性芸人たちの美しさは、悪魔の目的から目をそらすための偽り。

・芸人(男性も女性も)は、人や動物に呪文や魔法をかける能力を持っている。

・芸人は異教徒

・芸人は悪魔の手先、悪魔の世話人、悪魔の召使。民衆を正しいミサ、お祈り、道徳的な行為から遠ざける。芸人が楽器を鳴らすと、悪魔が喜び、天使が悲しむ。

このようなネガティブなイメージが放浪楽師など芸人全般に貼り付けられて中世ヨーロッパの固定観念になっていました。

このネガティブイメージは、放浪楽師(芸人)の実態を反映している部分と、想像をふくらませて作り上げられた部分の両方がありそうです。その実態を反映しているとみられる部分は、社会から疎外された結果そうならざるを得なかったという面が多いことも忘れることはできません。想像を膨らませて作りあげられた部分は、社会の不都合を押し付けるスケープゴートとして利用されたという面もかなり多そうです。

ちなみに冒頭の写真は、「遍歴の楽師たちの争い」G・ド・ラ・トゥール(1593-1652) 楽師たちの喧嘩好き、貪欲、ねたみ、うぬぼれがテーマの絵画

 

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