一十舎では指板にカエデを多用します。白の色合い、絹のようなきめの細かさ、大理石のような品のよい杢など、とても魅力的な素材だと思います。
カエデを英語にするとメープルになりますが、カエデとメープルは同じものなのでしょうか。
一口にカエデとかメープルと言ってもその内容は百数十種類あり、人によって、場面によって、いろんな言葉の使い分けがされているようです。庭木程度の大きさにしかならない日本のモミジと数十メートルの巨木になってシロップが取れるカナダのシュガーメープルは、生活感覚としては別の木として表現されますが、分類としてはどちらもカエデ科カエデ属で、英語にするとメープルになるので、同じ木と言ってもまちがいではないわけです。
木工の世界の大きな分類としては、メープルというと北米からの輸入材のメープルをさし、カエデというと国産のイタヤカエデを指すことが多いようです(ただし、国産カエデをメープルと書いて販売している人もいるのでケースバイケースです)。一十舎でも、国産のカエデを使用したときはカエデと表記し、輸入材のメープルを使用したときはメープルとラベルに記載することにして区別しています。実際、材木としての使用感も、国産カエデと輸入メープルでは異なっているので、この区別には意味があると思います。国産カエデはメープルよりもわずかに赤みがかっており、表情のある白です。国産カエデは杢にもおもしろいもようが出やすく、木ごとに個性的な表情があります。それに対して輸入メープルは、一様に白くて均質です。どの木をとっても均質な材を入手しやすいので大量製品化や大きな製品を作るのに向いています。一十舎では一本ごとに個性的なウクレレを作ることに重きを置いているので、必然的に国産カエデを好んで使うことが多くなっています。
それから木工材の取引では、輸入メープルをハードメープルとソフトメープルのふたつに分類して販売していることも多いです。これもいろんな種類のメープルの含んだ分け方なのですが、ハードメープルというのはシュガーメープルやブラックメープルなど硬くて重い傾向のもの(気乾比重0.7くらい)、ソフトメープルとはレッドメープル、シルバーメープル、ボックスエルダー、ビッグリーフメープルなど少し柔らかく軽めの傾向のもの(気乾比重0.54くらい)をさすようです。ソフトメープルはハードメープルよりも25パーセントくらい柔らかめというのが全体的な傾向のようです。これも木工としては役に立つ分類で、材の耐久性、加工性、どの部位の材にするかなどを考えるうえで参考になる分類です。
ちなみに、国産のイタヤカエデは、ハードメープルとかソフトメープルという分け方をすることはないようですが、イタヤカエデの気乾比重は0.67なので、ハードとソフトの間のハード寄りといったところでしょう。楽器材としては色々使いまわしのできる比重だと思います。
というわけで、カエデとメープルは同じなのかちがうのかということの結論は、同じといえば同じ、ちがうといえばちがうという禅問答のような答えになります。 ^^) _旦~~