西洋クラシック音楽の場合、長調なら明るい感じ、単調なら暗い感じと言われ、また各調ごとの個性もあって、変ホ長調は堂々とした感じ(ベートーベンの「英雄」「皇帝」)とか、ヘ長調はのどかな感じ(ベートーベンの「田園」)、などとも言われます。調と感情の相関関係です。
日本の雅楽では、平安時代の楽書「龍鳴抄」に季節と調の相関関係、「時の声」が整理され、双調(そうじょう)(基音がソの音)なら春の調で「春庭花」「柳花苑」などの曲があり、黄鐘調(おうしきちょう)は夏、平調(ひょうじょう)は秋、盤渉調(ばんしきちょう)なら冬と分類され、さらに一日の時間にも時の声があったのだとか。
この感情と時と調の関係を更につきつめて分析整理した音楽が存在し、それがインド古典音楽です。演劇、舞踊、音楽に関する理論書『ナーティヤ・シャーストラ』(成立は紀元前2世紀~紀元後7世紀までと諸説あり)によって、演劇、舞踊、音楽は「ラサ」という美的要素を表象するものとされ、楽音や旋法などの音楽的要素と、上演・演奏の時間帯や季節が、8種のラサ(愛しさ、歓喜、怒り、悲愴、英雄、驚異、嫌悪、恐怖)、及びラサを生起させる「バーヴァ bhāva」(8種の基本的感情、33種の一時的感情、8種の生理的反応が包含される)と細かく結びつけられていて、その理論は現代のインド古典音楽にも継承されているそうです。
このインド人の分析力には驚かされます。おそるべしインド古典音楽。
数学の天才を輩出し、グーグル、マイクロソフト、IBMなど世界的CEOが続々と生まれるインド人の背景には、こういう分析知の伝統があるのでしょうか。