「修復家だけが知るストラディヴァリウスの真価」中澤宗幸著によれば、ヴァイオリンは、「演奏家の音色を蓄積する」楽器なのだそうです。
そのエピソードのひとつとして、世界的な名演奏家フランチェスカッティのこんな話があるそうです。若かりしフランチェスカッティがパリでコンサートのリハーサル中にヴァイオリンを弾いていると、ある有名なヴァイオリン製作者から、「あなたの演奏を聴いていると、クライスラーが弾いているように聴こえる」と声をかけられたそうです。フランチェスカッティは、驚いて「実は、私はヴァイオリンの調子が悪いので、クライスラーさんがこのコンサートのために貸してくれたヴァイオリンを弾いていたのですよ」と答えたそうです。
またサルヴァトーレ・アッカルドも、その著書、「アッカルド・ヴァイオリンを語る」の中で、「楽器は時とともにわれわれの音を吸収し、それを何年もの間保存する」と書いているそうです。
おもしろいですね。(#^^#)
ウクレレも、しばらく弾きこんでいると、だんだん音がよくなって来るというのは多くの人が言うことです。これも何か同種の現象が起きているのかもしれません。
こういう現象は木製の楽器だけの話なのでしょうか。金属製でも同じことが起こりえるのでしょうか。
木だけの話とすれば、木が長年にわたって同種の振幅にさらされているうちに、その振幅にもっとも共振しやすいように、木の細胞が少しずつ動いて整列してくるのかもしれません。木の板が短期間に反ったり曲がったりと、木の細胞が想像以上によく動くものだというのは、木工をやっていると確かに実感されることです。木の細胞は可動性が高いために、あたかも昔のレコード盤が音の振幅をそのまま刻み込んだように、演奏家特有の振幅を木の細胞配列として保存したのかもしれません。
ストラディヴァリウスは、超一流の演奏家であっても、いい音を出せるようになるまでに何年もかかることがあるそうです。これは木が音を蓄積するまでには何年もかかるということを示しているのかもしれません。
ストラディヴァリウスやグァルネリ・デル・ジェスといった銘品のほかには、あまりこういうエピソードを多く聞かないのはなぜなのでしょう。もしかしたら、ストラディヴァリウスやグァルネリ・デル・ジェスというのは、音を保存する容量が大きいから、その現象が目立つのかもしれません。だからこそ名器と言われ、それにふさわしい演奏家が限られるということが起きるのかもしれません。
おもしろいですね。
想像はいろいろ広がりますが、楽器ごとに音の保存性が変わり得るのだとすれば、楽器の何を変えれば音の保存性が高まるのか、楽器製作者としてはとても興味を惹かれます。(^^♪
木の性質という点からすると、緻密な木、老木、木の赤身の安定しているところ…そういうものの方が保存性は高いような気が、なんとなくしますね。そういう硬い木は、細胞が動くのに長い時間がかかりそうな感じで、長い時間かかって動いたものは、保存性が高そうでもあります。あくまで何となくですけどね、そんなことをつらつらと考えながら楽器を作るのも楽しいことです。( ^^) _旦~~
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