ビウエラ

スパニッシュ・プリンセス キャサリン・オブ・アラゴン イングランドに来た16世紀スペインの楽器

アマゾンプライムで放送されているアメリカのシリーズドラマ「スパニッシュ・プリンセス キャサリン・オブ・アラゴン物語」を見ていたら、キャサリン王女の護衛としてイギリスに来たスペイン兵がビウエラを弾く場面が出て来たので、そういう史実があり得るのか、ちょっと調べてみました。

キャサリン・オブ・アラゴンとは、スペインのカトリック両王の末子カタリーナのことで、1501年15才の時に、イングランドのアーサー王子と結婚するためにイングランドにやってきたのですが、その時、キャサリンがスペインから連れてきた一行は、トレドの僧上、マラガの僧上、カブラ公などの重臣たちのほか、護衛の男たち、60人の侍女、雑司など、かなりの人数にのぼることがわかっており、その中には音楽を担当する者たちとその者たちが携える楽器もスペインからイングランドに相当数が渡ってきたものと思われます。というのも、キャサリンがイングランドのウエストミンスター宮殿に到着した日、イングランド側が主催するおひろめの食事会の後、キャサリンは返礼として、国王ヘンリー7世とアーサー王子をキャサリン用の棟に招いてスペイン舞踊でもてなしたという史実があるからです。この時、キャサリンはまずアーサー王子を相手に一曲踊り、続いてスペイン女性と組んでかなり激しいリズムの踊りを自ら披露して見せ、そのキャサリンの踊りはどんどん情熱的になり、まるで忘我の境のようになり、それを見た国王ヘンリー7世をいたく感動させたということです。

イングランドに到着してすぐに踊りを王と王子に披露するために、キャサリンがスペイン風の踊りの練習をしてきたことと、そのための楽団と楽器をしっかり準備してきたことはほぼ間違いないと言ってよいでしょう。この時スペインはレコンキスタが完了した8年後で、イスラム風を排除した新スペイン文化揺籃の時代ですから、イスラムの香りがするリュートをイングランドまで持ってきたとはあまり考えられず、リュートに代わる国民的楽器としてビウエラを持ってきた可能性はかなり高いように思われます。また兵士たちが弾く楽器としてルネサンスギターも一緒にやってきた可能性もありそうです。

というわけで、キャサリン一行のイングランド来訪は、レコンキスタが完了した新時代のスペイン楽器一式がまとまってイングランドに持ち込まれた最初のイベントだったということができそうです。

なお余談ですが、キャサリンはアーサー王子の妻となるべくイングランドに来たのですが、アーサーが間もなく亡くなってしまうので、結局アーサーの弟ヘンリー(後の国王ヘンリー8世)の妻となります。

参考 Catalina de Aragon(1485-1536) -スペイン王女として生れ、イングランドに嫁す- 富永浩 早稲田商学第333号

 

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