平安時代の日本の弦楽器は四種類ありましたが、弦楽器の総称として全部「こと」と呼ばれていました。4種類の内訳は、①琵琶の琴(びわのこと)…4弦、②琴の琴(きんのこと)琴…7弦、③筝の琴(そうのこと)…13弦、④和琴(わごん)…6弦。
現代では、②きん、③そう、④わごんは、いっしょくたに琴(こと)として混同されがちですが、それぞれ別の楽器です。わごんは古くから日本にある楽器で埴輪などにも多数見られますが、きんとそうは中国から伝来した楽器。現代日本で一般に琴として知られているのは13弦琴ですから、③の筝の流れです。
今日書きたいのは、②の琴の琴(きんのこと)のことなのですが、これは古琴とか七弦琴とも言われます。以下混同しないように七弦琴と書くことにします。七弦琴には、琴柱(ことじ)がなく、左手で押弦する場所をスライドさせることで様々な音階を出すことができ、奏法的には現代ギターに近いと言えます。
七弦琴は、和歌にはほとんど登場することがないのに対し、物語文学の中には多く登場します。宇津保物語、松浦宮物語、源氏物語など、皇室の尊貴な人物が弾くものとして描かれ、大陸的な知識・神秘性・国際性などを象徴する楽器であったようです。源氏物語では、光源氏、末摘花、女三宮などが演奏していますが、そのように尊貴な楽器として登場するためか、一般的に広く親しまれる楽器ではなかったようです。
七弦琴は、遣唐使の時代に伝来し平安時代中頃まで演奏されましたが、演奏が難しく音も小さめのため雅楽の編成に取り入れられることなもないまま、日本では一度断絶し、江戸時代にもう一度伝来して文人に親しまれました。
次の動画は中国のものですが、古来の七弦琴のイメージがわかります。↓
七弦琴の中国の歴史をたどると3000年もの歴史があり、孔子、諸葛孔明、竹林の七賢の嵆康、陶淵明、白居易、日本人では菅原道真など、歴史上の著名な文人に愛され演奏されました。その演奏技は、ユネスコの無形文化遺産として登録され、宇宙探査機ボイジャーに積載されたゴールデンレコードには管平湖による古琴の演奏が収められるなど、人類の音楽を代表する音のひとつと言えます。