世界の樹木は7万種ほどで、そのうち楽器に使われるのは70種ほどと言われます。これほど多くの樹種の組み合わせがある製品は楽器くらいなのだとか。(日本も含めてアジアアフリカの様々な楽器の木を細かく調べれば、70よりもっと多そう)
ではなぜ楽器は木材が使われるのか。「そこに木があったらかだ」というのが初めの理由でしょうが、その後もずっと使われ続けているのには、以下のような理由があげられます。
・音は硬い物質(弾性係数・ヤング率が高い)ほど速く伝わるが、木材の繊維方向(木が伸びる方向)は、チタン、ガラスより20-30パーセントも弾性係数が高く硬いので、材木は振動を効率よく速やかに伝えるという基本的なポテンシャルの高さがある。縦方向に音波を素早く伝えることで面全体が素早く反応し、立ち上がりが良く(レスポンスが良く)、クリアな音が得られる
・さらに、木は、縦方向(繊維方向)に強い一方で、横方向に弱いという、方向によって性質が異なる異方性があり、その結果、横方向では、耳障りな金属的な高音が早く減衰していく性質が生まれ、その結果、中低音がよく響き、「温かい音、柔らかい音」という木特有の心地よさが生まれる。
・材木には、軽いのに硬いという、宇宙工学やスポーツ工学などが追い求める最先端素材的な優秀さがある(比ヤング率が高い)。比ヤング率が非常に高いスプルースから、軽さも硬さも中庸で適度なマホガニーなど、様々な程度で軽さと硬さを両立させる材種の豊富さが、幅広い音作りを可能にする。
・多様な材質の木があり、それぞれに特徴のある響き方、減衰の仕方があり、個性豊か。多様な音作りを可能にする。
・木の部位の木取りのしかた、削り方、厚みの付け方、板の形状、裏に貼り付ける響棒など、各段階での自由な加工性があり、それが微細な音の調整を可能にする。ヴァイオリンのバスバーや魂柱、ギターのブレイス(力木)、マリンバの板(音板)の裏側の削り方など。
・耐久性の高さ。乾燥状態を維持して手入れすれば、数百年~千年もの耐久性がある。
・数十年数百年を経るに従いエイジングによる熟成で音がよくなる。ストラディヴァリウスが400年かけて熟成しているが、600年から800年の寿命があるのではとも言われている。→古い木材はセルロースの結晶化が進み木目の方向に硬くなり、一方でヘミセルロースは減少し厚み方向に柔らかくなる。この異方性が高まることによって、弾いた瞬間の中高域の立ち上がりレベルの増大(レスポンスの良さ)、低域の伸びが良くなる(サスティーンの増大)、立ち上がり後に耳障りな高域成分がより短時間で減衰する、という特長がさらに強まる。
・軽量なのに強度が強い。同じ重量で比較した場合、引っ張り強度は鉄の4倍と言われる。圧縮強度はコンクリートの10倍以上と言われる。
・弾き込むほどに音が育つとか、弾き手になじむ音色になってくると言われる。ストラディヴァリウスの伝説。経験的に多くの人が弾き込み効果を体験しているが、音響科学者の中には、そんなことはあり得ないという人もいる。科学的な論証はない?
・修理や改変の容易性。例えばストラディヴァリウスは、19世紀頃のモダン化に合わせて、ネックを延長するなど、ほとんどが改変されている。
・木の吸排湿など(木は呼吸するとも表現される)で、周囲の湿度と釣り合う平衡含水率で安定すると、楽器全体がエネルギーのロスなく響きやすくなるという環境適応性がある。
・木、森、自然とともにある親しみの感覚を醸成する。古い楽器を弾くことは、歴史とともにある深みの感情をもたらす。
