あれこれいろいろ

琵琶「玄上(玄象)」の伝説パターンとストラディバリウス

前回の続き。

皇室の宝物であった琵琶「玄上」の伝説や逸話には次のようにパターンがあるそうです。(参考 「物語られる<玄上>・序説 森下要治 、ウイキペディア 等)

① 玄上が異常な響きを発して、その音が広範囲に到達する。

「大鏡」「無名草子」「木師抄」「今昔物語集」など。時代とともに到達範囲が広がる傾向があり、その到達範囲の拡大が承名門とか羅城門など平安京の門を基準に示される。

② 玄上が鬼に盗まれて宮中から消失する。(後に鬼から返される)

「江談抄」「十訓抄」「古今著聞集」「糸竹口伝」「今昔物語集」「愚問記」など。朱雀門の鬼に盗まれる、羅城門の鬼に盗まれるなど、ここでも「門」がキーワード。なお後醍醐天皇の時代に玄上は実際盗難にあって宮中から行方不明になって後に発見されたという史実もあるので、史実の脚色の可能性もあるでしょうか。

③ 玄上の腹立ち。演奏者の未熟、演奏保管態度の不完全などがあると、弾いても鳴らない。

「今昔物語集」「胡琴教録」「続古事談」「糸竹日」「横源抄」など。玄上は誰でも弾けるわけではなく、身分・演奏技術・心構え・十分な潔斎など、特別な清撰に預かった人だけが鳴らすことができるという方向の話。

④ 内裏の火災に際して自ら飛び出す。

「今昔物語集」「十琴抄」「禁秘抄」「糸竹口伝」等多数。例えば、糸竹口伝には、「昔大内裏焼亡のありけるには、跳び出でて大庭の椋木にかかりたりけり」とある。

⑤ 玄上の精霊に会う。

「文机談」「説教才学抄」「禁秘抄」「糸竹口伝」等多数。今昔物語集は、玄上を「生きたる者の様」と書いているが、具体的に翁や童という人のような姿であらわれることがある。

⓺ 玄上を狼藉から守る者を守る。

「文机談」「糸竹口伝」。玄上に狼藉を働く者から玄上を守ろうとする者が、玄上の助力によって空中浮遊するなどして命が守られるなど。

以上のようなパターンがあるのだそうですが、「門」「響きの広範囲」というものが天皇の権力範囲の広さ、「鬼」「火災」「狼藉」が天皇に敵対したり害する者の存在とそれに対抗することができる天皇の力、「腹立」は天皇の権威や尊貴性、「精霊」は天皇の神秘性などを現わしているようにも見えます。

ここまで書いて思い出すのは、現代の伝説の楽器ストラディバリウスのこと。ストラディバリウスは、音が圧倒的に遠くまで聞こえるとか、特別な名人が長年弾き続けてようやく弾きこなせるようになったとか、クライスラーのストラディバリウスを他の人が借りて弾いてもクライスラーの音で鳴ったとか、盗難にあったのが35年ぶりに持ち主に戻ってきたとか、ストラディバリウスを持って外出するときには雨がなぜか止むとか、様々な人によって様々な逸話が語られていて、玄上の逸話とどこか似たような雰囲気もあります。

しかしさすがにストラディバリウスの精霊の目撃談はないようで、ストラディバリウスに守られて空中浮遊したという人もないようです。ストラディバリウスは天皇の楽器ではなく一般人でも持てる楽器なので、そこまでの神秘性の話は必要なかったということでしょうか。

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