あれこれいろいろ

お金を動きを追うと音楽業界が見えてくる研究

18世紀ナポリにおける喜劇オペラ業界の研究論文(『パルナッソス山への階梯』18世紀後半のナポリにおける、音楽家のキャリア構築の実態・山田高誌氏)を頂いたのですが、興行師からオペラ業界関係者に対する支払経過を銀行や公証人記録などから追跡するという労作でした。冒頭の写真のような古記録をいくつも読み解くという大変な作業です。

金額という記号を紐解いていくと、作曲分業の様子とか、上演ごとの手直しの様子とか、台本作家と作曲家と器楽奏者の報酬の違いとか(器楽奏者は低い)、新人から待遇が上がっていく様子とか、台本を誰に何部配ったとか、民間劇場と王立劇場の報酬比較とか、当時の喜劇オペラ業界という巨大ジグソーパズルを構成するピースがたくさん集まってきて、次第に全体像が見えてくるようです。公的に記録されたお金の動きは、ピースの色・形・位置がはっきりしており、そういう確度の高いピースがあるとジグソーパズルが圧倒的に組み立てやすくなります。

また金額を基準にすることで、当時の人がオペラの何に重きを置いて何を軽くみていたかという主観的価値を測定することができ、本来比較対象にならない性質の異なるものを並べて比較することもできたりします。お金は静止するばかりでなく、人から人へ移動するので、オペラ業界がどのように連動して動いていたかという動態も見えてきます。

こうしてみるとお金の本質はきっと情報なんですね。それは楽譜にも似ているように思えます。音の動きの多様な情報が楽譜に載せられているように、お金の記録には人の動きの様々な情報が載せられており、あたかも人々の営為という悲喜こもごもの音楽劇(オペラ)を見ているかのようです。

論文のダウンロードはこちらから。↓

https://kumadai.repo.nii.ac.jp/records/30675

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