アトリエ一十舎楽器デモ演奏

日本の木ウクレレ№93 屋久杉・クワ・カツラ  コンサートサイズ

日本の木ウクレレシリーズ №93 !(^^)!

今回は、ボディ表板がヤクスギ(屋久杉)、裏板がカツラ(桂)、側板がクワ(桑)、ネックとブリッジがセンダン(栴檀)、指板がヤマザクラ(山桜)、ヘッドの突板がカツラ(桂)という、日本の木をたくさん組み合わせたブレンドバージョンです。

ヤクスギ、カツラ、クワ三種で作ったボディのコンサートウクレレの音がこれまでも結構好評のため、この組み合わせで作るのはこれで4本目です。本器の岩田先生の試奏がこちら。曲は「燃える秋」で武満徹作曲の曲です。


この3種の木のボディのコンサートウクレレの音についてのお客様の声は、コロコロして可愛いらしい、ほっとするよう、素朴であたたか、楽しい音色、唯一無二な感じ、良く伸びる、安定、力強い、愛おしい、ずっと弾いていたくなる、など多彩な表現。かわいらしさと力強さ、コロコロ感と伸びやかさという、なかなか両立しない両方が感じられるというところが、このウクレレの特徴のようです。3種の木のブレンドでボディを作ったことがうまくかみ合い、それぞれの木の個性が失われず相互に邪魔しないで高め合う両立感が生まれたようです。

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この3種の木ブレンドボディのウクレレが生まれてくるまでには、結構紆余曲折がありまして、最初、同じ形状大きさのウクレレのボディを全部ヤクスギで作ってみたら、張りのないぼやけた音のものができてしまい、改善策として、表はヤクスギのままで、裏と横を硬質重厚なクワにして音を引き締めようと考えて作ってみたら、ぼやけは改善されたのですが、少々音が硬いキンキン感が前面に出てきたので、中庸な硬さのカツラを取り入れて音を中和させてみようと考えて、表をヤクスギ、裏をカツラ、横をクワという構成で作ってみたら、たいへん好評だったという経過です。様々な木のブレンドで音を作るという発想はあまり一般的でないかもしれませんが、特に日本のように生育樹種が豊富な環境では、多様な音作りの可能性が開けて、かなり楽しい世界があるなあと実感しています。なお、もっと大型のルネサンスギターやビウエラのボディを全部ヤクスギで作ったときは、ぼやけた音にはならず、とても心地よい音で鳴りましたので、楽器の大きさ、形状、内部構造等が変われば、バランスは大きく変わるようです。そこが木のブレンドによる音作りの難しさと同時に無限のバリエーションの楽しみがあるところで、こういう音作りの多様性を楽しむというのが、今後の方向性のひとつになり得るのでは、と思います。

ではここで、今回使用した日本の木の概要説明。

・表板に使用したヤクスギは、文字通り、屋久島産の杉。樹齢1000年を超えるものだけが屋久杉で、樹齢1000年未満のものは小杉と呼ぶのが慣例ですが、材木の流通ブランド名としては、樹齢に関係なく広く屋久杉産のものはヤクスギの名で流通しているようなので、本器に使用したヤクスギの樹齢は不明です。昭和57年から資源保護のために樹齢1000年を超えるものの伐採が禁止され、その後屋久島が世界遺産に登録された後からは、小杉も含めてすべての伐採が禁止され、土埋木や自然の倒木だけが林野庁管理下で年二度の入札で入手できるだけなので、たいへん貴重な材となっています。屋久杉は本土の杉と変わらない同じ種ですが、花崗岩でできた栄養の少ない土壌、風雨の激しい環境の中でゆっくりと成長するため、年輪が緻密で樹脂分を多く含んで腐りにくく、清涼感のある強い香りが出るのが特徴です。樹脂分の多さは一般的な杉の6倍にも及ぶと言われており、樹齢も一般の杉が最大500年くらいなのを大きく超えて樹齢7000年の縄文杉も存在します。楽器材としては近年ギターやウクレレ材として使用されることがあり、年輪の緻密さと樹脂分の多さが、音響によい影響を及ぼしている可能性はありそうです。

・裏板に使用したカツラ材は、北海道から九州まで広く分布する日本特産の落葉広葉樹です(ただし中国にカツラの変種がある)。日本各地にカツラの老大木があり、天然記念物になったり御神木として祀られていたりするものも多く見られます。材質はやや軽軟で、均質で加工性が良く、狂いが小さいため、古来、家具、器具、細工物、彫刻、碁盤や将棋盤、能楽の面、東北地方の仏像、アイヌの丸木舟や食器などに多用されています。楽器材としては、薩摩琵琶の胴、月琴の胴、明治時代の国産ピアノなどに使用例があります。

・側板に使用したクワ材は、古来養蚕に使用されたヤマグワのことで、北海道から九州まで広く分布します。材質は保存性が高く、重硬強靭で、硬さのため加工はやや困難ですが、伝統的に建築装飾、家具、お椀、鞍、仏具、彫刻、楽器など様々なものに使われてきました。特に音響の伝導性が良いため、木魚、琵琶や三味線などの楽器材として利用例はかなり多くみられます。正倉院宝物殿にある阮咸(げんかん)という琵琶の一種はクワで作られていることが有名です。

・ネックとブリッジに使用したセンダン材も歴史的に古くから様々な用途で利用されてきた木で、軽量なのに耐久性が高く、音響特性がマホガニーに近いという研究があります(マホガニーとセンダンは異なる種ですが、どちらも同じセンダン科に属する近縁種です)。日本の楽器の古い例では、木魚や筑前琵琶の胴と頭にセンダンが使用された例があり、特に筑前琵琶ではかなりよく使われていました。

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