一十舎では、ウクレレの塗装は、ほとんどシェラックを使用しています。シェラック塗装が困難な場面ではオイルフィニッシュ塗装をすることもありますが、9割以上はシェラック塗装をしています。シェラックは伝統的な自然素材で、スペイン式ギターの名工・名器によく使用されています。ギターの振動を邪魔することなく、塗面に気品があり、木の呼吸を妨げないのです。
シェラック塗装には、はけ塗りとたんぽ塗りがあるのですが、一十舎ではたんぽ塗りで行っています。上の写真がたんぽです。木綿の布でテルテル坊主形を作り、これにシェラックをエタノールに溶かした溶液をしみこませて、板面上を移動させながら塗っていくのです。
写真は黄色い布を使用したので黄色のたんぽですが、たんぽの色に意味はありません。ふつうは白い布で作ると思います。
シェラックの塗装作業は結構むずかしいです。ちょっとしたことで塗りムラが残りやすいのでコツをつかむまでは緊張感の高い仕事になります。しかも何十回も塗り重ねる作業で、緊張感の高い作業の繰り返しと重ねるほどにムラが拡大していく現実を前にして、気持ちが折れるということになりがちです。ポリウレタン塗装やラッカー塗装などのスプレー塗装や、オイルフィニッシュ塗装などの手塗り塗装も世の中にはあるわけですから、「べつにシェラックでなくてもいいかあ」という気分になってそちらに寄っていくことになります。もちろん、それらの各種塗装も長所がありますのでそれは別にいいのですが、シェラック塗装という選択肢が消えてしまうのはやはり残念なことです。
しかし、いったんコツをつかみはじめると、シェラック塗装は一転して楽しい作業になってきます。だんだん光沢を増して気品が出て生まれ変わったようになってくるウクレレを見ているとうっとりします。
「前から美しいと思っていたけど、君はこんなにも美しかったのだね」
みたいな気分になるのです。おさななじみの彼・彼女が、何かのときに美しく装った姿をはじめて見て、ドキッとするみたいなのにも似てるかもしれません。「ほ、ほ、惚れちゃった~♡」という気分が塗り重ねながらゆっくり起きてくるのです。
写真のテルテル坊主は、そういう惚れちゃった製作の道具です。!(^^)!