AIと音楽

プロアマ共通言語としてのAI

昨日の記事の追加的な内容です。音楽の専門家とアマチュアの間にAIが入ることによって、どのような展開が起こり得るのか、ということを少し具体的に考えてみたいと思います。

アマチュアの人が、思いつくままにAIを使って音楽で遊び倒すと、たくさんの奇妙な音楽や次々に使い捨てられる音楽が生み出されて、SNSや動画などに溢れてくることになります。そんな一見ガラクタのようにも見える音楽の山から、きらりと光る音楽的な価値を発見できるのは、専門家の見識かもしれません。専門家であるがゆえに先入観から見落としてしまうものもある反面、それまで培ってきた音楽理論、感性、知識、音楽史の見識、多種多様な音楽経験に照らして、山の中から一瞬のきらめきを放つものを発見し、引っ張り出し、育て、新しい作品につなげていく、そんな専門家ならではの活躍もありそうです。専門家は従来、作曲家や演奏家や教育家として世に立つことが多かったわけですが、AI時代以降は、音楽の発見者、解釈者、新しい音楽を育む者としても、大きな力を発揮する余地があるように思われます。

また逆に、専門家からアマチュアへという流れもありそうです。専門家が専門的な技術や知識を駆使して作った音楽を、アマチュアがAIを使って思いがけない使い方で楽しみ出し、その音楽に新しい社会的な意味を与えるということがありそうです。そんな想定外の使い方は、作曲家本人には不快に感じられ、場合によっては音楽への冒涜と思われるかもしれません。利用の仕方によっては著作権などの問題も生じ得ます。しかし、それとは別に、作品が作曲家の想定を超えた新しい社会的意味を獲得する可能性にも目を向けたいと思います。長い目で見ると、新しい社会的意味を与えられた音楽が、新しい世界で大きく羽ばたくチャンスが生まれる可能性があります。

一例として、最近、アニメやゲームの異世界もの・異次元もの・魔法ものなどには、ファンタジー世界の受け皿として、西洋の中世的な雰囲気が使われることが少なくありません。その中でリュートやハープなどの古楽器を思わせる楽器や音色が、幻想的な世界観を演出するために用いられたりしています。歴史的な演奏法や楽器の構造を重視する古楽の専門家と、その楽器がどのような物語性や感情を生み出せるかを重視するアニメ・ゲーム製作者の出会いから、伝統的な古楽の演奏でもなく、単なるファンタジー音楽でもない、第三の表現が生まれる可能性もありそうです。そんな動きをAIがさらに加速し、アバターやロボットも加わって、魔訶不思議で魅力的な音楽性がいろいろ飛び出しそうです。そのような動きを古楽への冒涜と考えて古楽の伝統を守ろうとする専門家もいれば、そこに古楽の新しい可能性を見てAIが作り出すアバターやロボットの世界に古楽器を携えて乗り込んでいく専門家もいるでしょう。いずれにしても、大きな刺激が加わって、新しい音楽の胎動が始まりそうな予感です。

こんなふうに、AIを共通言語にすることで、アマチュアと専門家の間には、これまでになかった新しい通路が開けるのではないでしょうか。互いの音楽の中に思いがけない価値を発見し、それを新しい世界へと運び、また新しい価値を生み出していく。そんな創造性の循環が、これからの音楽文化を大きく豊かにしてくれたら良いと思います。