ルネサンスギターには、いろんな顔(側面)があって、
ヨーロッパで大型化してバロックギターやクラシックギターに繋がっていく顔
島に渡って小型化してカヴァキーニョとかティンプレとかウクレレとかに繋がっていく顔
昔の上流階級に弾かれてポリフォニー音楽を優雅に奏でていた顔
庶民に床屋や酒場やどこにでも持ち込まれてジャカジャカ賑やかに弾かれていた顔
コロンブス以後新大陸に渡って中南米のアフロアメリカギター文化に繋がっていく顔
アジアに渡ってインドネシアなどに入っていく顔
ヨーロッパ各地の土着民族楽器として色々分化していく顔
大航海時代の帆船に積まれて船舶楽器などにもなっていく顔
こんなふうに、いろんな顔があります。
どんな顔を見て、どんな文脈を読みこむかで、全然違う物語になります。
ルネサンスギターという名前は、実は、一番最初に書いた、ヨーロッパ内でクラシックギターに繋がっていく顔のときのことしか表現していなくて、このギターの他のいろんな顔のときのことをあまり伝えてくれません。
全部の顔を表現できる名前があるとよいのですが…。
「イベリア半島発祥の4コースギター」あるいは単に「4コースギター」、とも呼ぶのが適切かもしれません。本当はもうちょっと親しみやすい感じの名前が見つかるといいのですが。
どんな楽器も大抵いろんな文脈、いろんな顔を持っています。時代や社会ごとに、その中の一部の顔だけが浮かび上がって脚光をあび、他の顔のことは影に隠れて忘れられていたりするわけですが、氷山の海面下の部分のように、忘れられている影の顔の方がはるかに大きいというのが、まあ楽器についても一種の真理なんじゃないかと思います。